非日常のとビら

□29日 独占欲
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キャリーバッグに衣装をぎゅうぎゅうに詰めてチャックを閉める。

時刻は朝の6時。私が起きているにしては早い時間だ。ずっと起きているとしたら話は別だが、今回はそうではない。

とりあえず私が行うべきは奴らが来る前に家を出ることだ。

家を出る時間は30分後。
本当は1時間後でも充分間に合うのだけれど、今日は早めに行動したかった。
だからそれまでに最低限のメイクは済ませておきたい。

ポーチを取り出して下地を塗り、メイクを施していく。
58色入りのアイシャドウパレットを机に広げてキャンバスに絵を描くように色を置いた。

おお、今日は救えるブスの日だ。今日が救えないブスの日だったら泣いていたけど今日は盛れる。

アイラインをしっかりひいて、左右を向いて鏡をチェックする。
よし、今日はそこそこかわいいかもしれない。当社比だけど。

忘れ物がないかチェックをして、メイクのポーチも入れる。
キャリーバッグを持っていざ家を出ようとしたとき、階段から二人分の足音が聞こえてきた。

これはやばいと急いで家を出ると後ろから追いかけてくる音がして、もちろん私は捕まった。


「待てココナ」

「なんで逃げるの」

「こうなるからだよ!」


肩に置かれた手を大げさに払って怒る。


「ココナがメイクしてるなんて、まさかデートじゃないよね?」

「オレという男がいるのにか?」


イルミが問い詰めるように私と目を合わせ、クロロが切羽詰まったように私に問いかける。
私にしては早すぎる時間に出かけるからこいつらは来ないと思っていたのに、こういう時だけタイミングが悪い。


「ほんとにめんどくさいなぁ。お前らいいから家に帰って」


いくら時間に余裕があるとはいえ、こいつらと言い争う時間なんてない。
このままだと予定に遅れてしまうからこいつらには帰ってもらわなくては。


「おねがい大事な予定なの。帰ったらいくらでもかまってあげるから。ね?」

「そんなに必死になって。怪しいな」

「聞いて。デートでも何でもないから。お前らが思ってることなんて何もないから」

「それならどうしてそんなにムキになるのさ」


こんなところで言い合いをしていても仕方がないから言ってしまった方が良いのだろうが、私はどうしても言いたくない。
言いたくない。

とりあえず2人を振り払って少しヒールの高めの靴をコツコツと鳴らしながら歩き出す。


「私は遊びに行ってくるの。わかる?1人で行きたいの」

「1人でいくのはいいけど何処に何をしに行くのか教えてよ」

「少し遠くの街に交流しに行くの。以上」

「それでオレが納得すると思うか?」


少し不機嫌なクロロと目が意図的に合わせられる。
私の前にまわりこんできたのだ。

引き留められたのは駅までもう少しという所の人気の少ない公園。
ここなら邪魔にもならないかと私も素直に1度足を止めた。

いつもより身長を盛っているせいでクロロとの距離が近い。
なんだか変な感じだ。


「この靴を履くとクロロとの距離がとっても近いね」


1歩近づいてクロロが屈んでくれたなら頭突きをかませそうだ。

頭突きしたらどんなリアクションを取るのかと少し想像したらおかしくて、ふふ、と場にそぐわない笑い声が零れてしまう。

当たり前だがクロロは全く関係ない話が気に食わなかったようで眉間のしわがさらに深くなった。


「クロロにばっかり色目使うのずるい」


私とクロロの間にイルミが割り込んできてそんなことを言ってきた。

私は断じて色目など使っていない。


「色目なんて私が使えるわけないでしょ。もういいよ。正直に言ったら帰ってくれるんでしょ?」


あまりにもしつこいし、めんどくさい。
このままではどこにも行けないから仕方がなく私が折れる。


「私今から二次元のイベントに行ってくるの。Twitterで繋がった人と会えたらいいなってポテンシャルでコスしてくるからついてこないで」


こんな事を言ったら奴らは護衛だのなんだのと何かしら理由をつけて着いてこようとするだろうが、今回は本当に連れていきたくないので何を言われても却下だ。
帰ってもらわなくてはならない。


「ココナがメイクしているのはそういう事ね。理解したけどなんでついて行っちゃだめなの?これも文化交流だと思わない?」

「うん思わない。土産話ならあとでいくらでも聞かせてあげるからいい子で待ってて」

「じゃあほっぺにキ…」


イルミが全て言い終える前に頬にキスを落とす。
今の私ならこれくらいはできる。

イルミは私が嫌がると思っていたのか少し意表を疲れた表情をしていて、今がチャンスだと思った。

しかし気に食わない者がもう1人いる。
ここにいたのがイルミだけならこれでクリアだったのに。

イルミだけは可哀想だからクロロもできることなら許してやろう。
私にとって基本こいつらは犬みたいなものだと思い始めている所がある。
片方の犬が見ているところでおやつをあげたならもう片方にもあげないと納得がいかないだろう。
暗殺者と盗賊にそんなことを言ってる人なんてあちらの世界にはいないのだろうが。

クロロの方に視線をよこすと、ちょうど口を開こうとしているところだった。
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