非日常のとビら
□33日目 これから
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パクノダさんとヒソカが乗った飛行船も飛び立っていく。
ヒソカは戦闘狂だから、たぶんクロロと本気で戦いたかったのだろう。
でも今はそんなことはどうでもよかった。
クロロの胸にすっぽりとおさまって、 ぎゅ、と抱きつく。
何か言ってやりたかったけれど何も出てこなかった。
クロロは左手だけを私の背中にまわして抱きしめかえしてくれる。
「巻き込んですまなかった」
謝られたってどうしようもない。
クロロが私に謝ったところで私が帰ることはできないのだから。
「…俺は、ココナを他に行かせたくない。こうなったのは俺のせいだが、俺のところにいて欲しい」
俺の事を恨んでもいいから、と言ってもう片手を私の頭にまわしてさらに強く抱きしめる。
「…自分勝手」
ぽつりとそんな言葉が口の端からこぼれた。
「勝手に人の家に現れて、勝手に行き来して、勝手に扉が出せないようになって…それでも私にそばにいろって言うなんてあまりにも自分勝手なんじゃないの馬鹿クロロ」
額を胸に押し当ててさらに言葉を続ける。
「でも、そこまで言うならちゃんと責任取って守ってよね。こっちで死ぬなんてごめんだし。ダメそうだったらイルミのところにでも行くから」
そこまで言うと、安心したのか足に力が入らなくなってしまった。
もちろんクロロが支えてくれたので倒れることはなく、1度地面に座らされる。
「すごく怖かった。死ぬのかなって思った。でも私みんなのこと信じてたから助けに来てくれるって思ったのにクロロも捕まってるんだもん…安心して力が入らなくなっちゃったよ」
しかしどうしてクラピカさんはクロロを殺さなかったのだろう。
さっさと殺してしまえば危険因子がなくなるのに。
ひゅう、と強く吹いた風が私をこちらの世界に引き戻す。そうだ、そんなことよりだ。
「これからどうするの?どこか行く宛はあるの?」
「特に行く宛はないが、行こうと思っている方向ならある」
「方向?何それ。直感的な?」
「占いだ」と言われてふーん、と答えてから足場の下を見る。
どうできたかわからないくらいの高い岩?のようなものの上にいる私達はどうやって移動するつもりなのだろう。
少なくとも私はここから飛び降りたら投身自殺になるだけだ。
「ちゃんと連れていくから安心しろ。怖いならココナが寝てる間に移動してもいい」
「そりゃあそう。クロロに運んで貰わなかったら私ここで餓死ルートだし」
また下を見下ろしたところでけたたましい電子音が聞こえて体が飛び跳ねた。
どうやらクロロの携帯がなっているようだ。
クロロが通話ボタンを押すとスピーカーから大きな声が聞こえてきた。
『ちょっと、ココナのところに続く扉が無くなってるのどういうこと。ここにココナの鞄があるけどココナの携帯には繋がらないし
、こっちにいるの?いないの?』
珍しく声を少し荒らげているイルミの声が耳に入り、そこで私は鞄を持ってきていた事とスマホのことを思い出し、ポケットに手を入れるとちゃんと私のスマホはそこにあった。
「イルミはヒソカの身代わりをしていたんだろ?何も知らないのか?」
質問に質問で返したせいか、電話越しに殺気を感じる。
これは私に弊害がおよぶ。
クロロから携帯を奪い取り、耳にあてた。
「イルミ、私はここにいるよ。私はいまどこにいるかわからないんだけどその鞄すごく大事だから持っていてくれない?」
「ココナ…よかった。オレもうココナに会えないのかと思った…」
さっきまで出ていた禍々しい殺気がすぐになくなり、代わりに心底安心したような声が聞こえて、少しの沈黙が訪れる。
こんなにあからさまだとさすがに照れるではないか。
かあっと顔に熱が集まったのをぱたぱたと手で扇ぐと、携帯はするりと私の手から抜けていった。
上を見上げるとクロロがムスッとしながら携帯を摘んでいる。
「ココナの面倒はオレが見る。ココナがそう望んだからだ」
「クロロのとこにいたら早めに帰れそうだってだけだから別にクロロにこだわってる訳むぐっ」
「ほら、ココナもオレの傍にいたいと言っているだろう」
無理やり私の口を手で塞いでおいて都合のいい言葉に変換するバカをじろりと見てやったが知らぬ存ぜぬな態度を取られた。
『ココナのためならココナ専用の家を与えてもいいし、この世界のPCとかゲームとか欲しいものなんでもあげられるよ。もちろんココナが望むなら籍を』
「前半はすごく魅力的だったけどイルミのお嫁さんにされちゃうならやめようかな」
イルミのこれはきっとおふざけなのだと思う。彼なりに私を気遣ってくれている気がしてなんだか胸があたたかくなった。
「でも、ありがとうね。イルミ」
そうとだけ言うとクロロに携帯を返す。
イルミになら私の大切な鞄を預けても大丈夫だ。
クロロは携帯に何が吐き捨てるように言うとすぐに携帯をしまった。