非日常のとビら

□34日目 貴方の真意がわからない
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連行されたのはただひたすら豪華で広くて綺麗なお部屋。
安いビジネスホテルにしか泊まったことの無い私は、これから浮浪生活をするのにアホみたいに豪華なホテルに泊まる意味がさっぱりわからなかった。

クロロ達がとんでもない犯罪者だとわかっていたけれど、ああ、立ちくらみが…

イルミがお坊ちゃんなのは今までいろいろ見てきたからか、なんの違和感も感じなかった。
クロロとも仲がいいつもりだったけど私は思っていたよりも彼のことを知らなかったらしい。


「ちゃんとこれ相部屋?私1人で部屋にいるのやだよ!」

「そっちが風呂だ。着替えはこれ使え」

「答えになってない!ただでさえ寂しいのに1人にしないでよ!」

「はいはい、相部屋だから行ってこい」


投げ渡された着替えをキャッチすると、とりあえずスリッパに履き替えてホテルの個室にしては長い廊下を歩いて
クロロが言っていたであろう扉を開く。

脱衣所からバスルームを覗き込むとここにはバスタブも置いてあるようでお湯も張れるようだった。

きゅ、と蛇口をひねってお湯の温度を手で確認してからまた脱衣所に戻ってぷち、ぷちとボタンを外していく。

するりと袖から腕を抜くと左腕には小さな擦り傷がたくさんできてしまっていて、右腕には打撲の跡があった。

しばらくは腕を出した服は着ることができないだろう。
といっても今私の持っている服はこれしかないからどうしようもないけど。

クロロから渡された着替えは真っ黒大きなシャツのようだ。
何故か下着もちゃんと入ってる。ないのも嫌だからなんでもいいや。

服を脱ぎ終えてバスルームに入ると、バスタブに注がれているお湯から白い湯気が出ていて、待ち望んだお風呂ににこにこしてしまう。

シャワーのコックをひねって温かいお湯を浴びるとびっくりするくらい傷に染みて「痛った…」と思わず声が出た。


「これお風呂に入って大丈夫かなぁ…」


若干ビビりながらちゃぷん、と足を入れると膝くらいにしか傷ができていないようであまり染みなかった。


「これ傷が残っちゃったら嫌だなぁ…」


腕がよくわからない傷だらけだと私のイメージに関わる。
お嫁の貰い手がイルミしかいなくなっちゃう…

そんなくだらないことを1人で考えていることが、私の中で何かひと段落がついた気がしてふふ、と笑みが零れた。

こんな安心感をリアルで体感するなんて思って無かったなぁ、なんて考えられるのは自分自身が生きているからだろう。

ホラーサバイバルゲームでしか感じたことのない安心感だ。
すごく強い敵がいる迷路のように入り組んだ真っ暗な洞窟の中に探索に行って、そんな敵がどこにいるかもわからずに物資を探しをするという目的を終えて、しっかりセーブゾーンでセーブして、洞窟から無事脱出した時みたいだ。
なんとゲーマーにはわかりやすいたとえ。
たぶんクロロには伝わらない。


「刺激がない事が1番幸せだったのかな…」


ゲームのことを考えて、自分が現実世界に帰れないということも思い出してしまった。
クロロと出会う前に感じていた物足りなさ。あれは欲張りだったのだろうか。


…いや、普通はこんなことになるなんて考えるはずもない。恐らく私は悪くない。
普通に過ごしていて異世界に通じる扉が現れるだなんて想定の範囲外すぎだ。

バスタブのサイドに、ジャグジーと書いてあるボタンを見つけて何気なく押しながら目元までお湯に浸かってぶくぶくとしてみる。


ぶくぶくと立ち上る泡が傷口に染みたけれど、生きていることを実感出来る気がした。
傷がなかったらゆっくり楽しめたのにという気持ちがない訳では無いけど。

しばらくジャグジーを楽しんだ後、髪や体を痛みに耐えながら洗い、お風呂を出る。
少し寒くなったこの地域では出る時に少し寒いかと覚悟をしてから出たけれど、ここは高級ホテル。しっかりエアコンがきいていてしっかり快適だった。

わしゃわしゃと髪の水分をタオルに取ってもらって、体の水も拭き取り下着を身につけてからパジャマとして貰ったシャツに腕を通す。

驚くほど滑らかな肌触りのそれは、どうやらシルクでできているようで傷に触れても痛まなかった。

ずっと触っていられそうなくらい気持ちがいいけれど、本当にずっと触ってるわけにはいかない。

ドライヤーは…まぁいいか。
私はさっさと休みたい。寝癖はアイロンでどうにかなる。

バスタオルはカゴに入れて何枚か畳んで置いてあったフェイスタオルを手に取ってクロロの所に向かう。


「あれ、いない…?」


どこにもやつの姿は見当たらない。
靴を履き替える姿も見ていないからそれは判断材料にすらならない。

書き置きなどがないか部屋を見てみたけど特にない。
帰ってこないなんて思ってはいないけど、こんな時に1人にします?

いないならいないで仕方がない。
さすがに外に出る勇気はないし、かと言ってここでじっとしているのもなんとなく嫌だ。
私はこの世界のことを何も知らないのだから少しでも知るためにはこの世界のメディアを知る必要があるのかもしれない、とテレビの電源をつけてみることにした。
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