非日常のとビら
□35日目 あさがきた
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ゆっくりとまぶたを開いて時間を確認しようといつものように枕元を探ろうとすると、伸ばした手に激痛が走り、った…と小さく掠れた声が出た。
ぽやぽやとして気持ちよかったのに痛みで覚醒するとはなんとも嬉しくない目覚めだ。
腕が痛むのは十中八九昨日の出来事のせいだろう。
静かな室内はアナログ時計がかちかちと時を刻む音だけが響いている。
昨日は気付かなかったけど、寝室に時計があったのか。
寝室は仄暗いけれど、カーテンの隅からはぼんやりと光が漏れでている。
光の強さ的にまだ朝方だろうと枕元にあったスマホを見ると、時刻は6時半。
出発時間を聞くのを忘れていたけれど大丈夫だろうか。
どこかの誰かさんのせいで寝不足な目をこすりながらむくりと起き上がると、隣のベッドにクロロはいなかった。
もう起きているのだろうかと、キッチンにお水を飲みに行くついでにリビングに寄ってみることにした。
キッチンは確かリビングに隣接した対面型のものだったはずだ、と眠気が8割を占めている頭で昨日のことを思い出しながらリビングに向かうと、リビングの遮光カーテンも閉められたままだった。
とりあえずキッチンにある備え付けのコップにとくとくと水を注いで喉を潤し、一応クロロの分もとコップに水を入れてソファーのほうに行くと、すぅ…と穏やかな寝息が聞こえてきた。
わざわざクロロはソファーで眠っていたらしい。
別に同じ寝室で寝ようが私は全く気にならないのに、と思いながらソファーの前のローテーブルにお水を置く。
着ていたコートをかけて眠っているが、いくら空調管理がされているとはいえこれでは寒いだろう。
私は寝室に戻り毛布を持ってくると、クロロにかけてあげた。
クロロが眠っているのなら私もまだ眠っていて大丈夫なのだろうが、ベッドに戻って眠った暁には昼まで目覚めない気がする。
起こさないようにある程度の準備だけしていつでも出られるようにしておいた方がいいのだろうか。
クロロみたいな修羅場をくぐりまくっている人間なら私の気配で目覚めていてもおかしくないけど、起き上がらないならこのままでもいいのだろう。
昨日クロロからもらったメイクポーチを持って洗面所に向かい、顔を洗って歯を磨き、ヘアブラシで髪の毛を梳かす。
昨日クロロが乾かしてくれたおかげか寝癖は全然ついていなくて最高だった。
持ってきたメイクポーチに目を落とす。
特にやることがないと言えばないのだけれど、まだ寝られるなら寝ておきたいし顔面塗装は後でもいいかもしれない。
着替えも後で着る分だけ置いておけばいいだろう。
音を立てないように静かにリビングに戻り、クロロが眠っている対面のソファーに腰掛けると、自分は薄手のブランケットを羽織るように肩にかけて目をつむる。
ここで座って眠れば、たぶん恐らく寝すぎることもないし、クロロが起きたら起こしてくれるだろう。
どこかの誰かさんのせいで眠いし、ギリギリまでしっかり寝かせてもらおうじゃないか。
もらったリュックを抱き寄せて、クロロの寝息を聞きながらもう一度眠りについた。
ーーーーー
首元に何かがあたる感覚がして、目を閉じたままあたりを伺う。
首元にあたっているのはふわふわとした柔らかい感触から察するに毛布だろう。
今私が腕に抱いているのは、いつものぬいぐるみではない。
これは…リュック…?
そこで全ての情報が繋がってぱちりと目を開けると、今毛布をかけてくれていたであろうクロロと目が合った。
「おはよ…?」
まだ私の喉は目覚めていないらしくふにゃふにゃの声が出た。
多分表情筋もゆるゆるのふにゃふにゃなのだろう。笑った感じがいつもと違う。
するとクロロも「ああ、おはよう」と、優しく笑って頭を撫でてくれた。
こんなに優しい顔ができるんだ。なんて思いながらくわっと欠伸をする。
「いま何時?私寝過ぎちゃった?」
「10時頃だ。別に急いでいないからまだ眠いなら寝ていてもいいんだぞ?」
「ううん。起きるよ。どうせクロロに抱っこしてもらったらそこで寝ちゃうんだし」
少し名残惜しいながらも毛布を手放すと、クロロが受け取ってくれた。
「わざわざ毛布を持ってきたんだろう?礼を言う」
「いいんだよ。っていうかクロロも寝室で寝てよ!ソファーで寝ててびっくりしたんだから!」
「ソファーに座っていたらそのまま眠っていただけだ。ココナの言っていた寝落ちってやつだ」
クロロはそこで話を切り上げるかのように毛布を戻しに行ってしまって、何も言えなくなってしまった。
自ら私のベッドに勝手に入って添い寝してくるようなやつらもいるのに、クロロはこういう時は紳士的だ。
どこかのイルミとヒソカには見習って欲しい。
しかしこのままではなんとなく嫌な為、どうしたものかと思いながら着替えを持って洗面所へ向かった。