非日常のとビら

□36日目 きもち
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ココナと会えなくなってから、どれほどの時間が経っただろうか。

毎日当たり前のようにいたはずのものが突然いなくなる、それはまるで自分の一部が消えてしまったようで酷く落ち着かない。

ココナの無事はわかっている。
でもクロロの傍にいることが気に食わなかった。

もちろんココナをこのままクロロに独り占めされる気はさらさら無いため、あらゆる情報網を使ってぼんやりとした位置を突き止める。

一緒にいるのがクロロのため、さすがにしっぽまでは掴ませてくれない。

自分の情報網を使っても、完璧に見つからないのはこのまま連れ去られてしまうのではないかと焦りを生じさせた。

今日もぼんやりと突き止めた場所をまわり、ココナの気配を探ると、すぐに顔をあげた。

間違えるはずない。これは確実にココナだ。

気配の方向を見るとさらりと髪を揺らす楽しそうなココナの姿を見つけた途端、弾かれたように体が動き出し、次の瞬間には抱きしめていた。


「やっと、みつけた」


自分の腕の中にあるちいさい存在がどうしようもなく愛おしくてもう二度と離したくないと思った。




ーーーーーーーーーー




私の腕にさらりと零れてくる、絹糸のように艶のある黒髪には見覚えがあった。


「い…るみ?」


後ろを振り返りたいのに、肩に頭を乗せられているせいでそれができない。
しかし、名前を呼んだ時に腕の力が強くなったことからイルミだということは分かった。


「ココナと…もう二度と、逢えないと思った……」


よかった、と存在を確かめるかのように私の名前を何度も口にしている。


「ココナ!おい!ココナから手を離せ」


私が居ないことに気がついたのか、少し焦った様子のクロロが不満げに私を引き剥がそうとする。
しかしイルミは微動だにしない。


「クロロはずっとココナといたんでしょ。オレはもうココナと離れたくない」


自然な所作で私をお姫様抱っこすると、当然だけれどイルミと目が合った。
久しぶりに見た彼の顔はどこか悲しげで、なんだか心苦しくなる。


「大丈夫だよ。私はちゃんとここにいる」


落ち着かせるように優しく言って、そっと頭に手を伸ばし、撫でる。
迷子になった子供のような彼の行動はなんだか放っておけなくて、人目もはばからずに、イルミの頬に手を添えてこつんとおでことおでこをくっつけた。


「ちゃんとあったかいでしょ?私は生きてるよ。ここにいる。大丈夫」


クロロはとてつもなく不満げだったが、何も言わなかった。

イルミのオニキスのような綺麗な瞳は私だけを映し出している。
触れた頬は私より少し体温が低く、手のひらの熱がじんわりとイルミに伝わっていくのがわかった。

それから少しずつ、少しずつ落ち着いていくのがわかったが、やはり私を離そうとはしない。


「ココナがオレの前から消えてしまう前にどこかにしまっておきたいよ」


私を抱く力がまた強くなり、イルミならやりかねないとも思う。


「そういう危ない考えは本人の前で言うもんじゃないよ」

「ココナを独り占めしようとするなら容赦しない」

「ちょっと、クロロ!」


わけわかんないことでバチバチされても困るためクロロを宥める。
しかしそれくらいでは収まる訳もなく、肌を焼くようなちりちりとした感覚がしてぞくりと悪寒がはしった。
この感覚には覚えがある。殺気だ。


「ま、ちょっと待って、やめて!私この感覚はだめなの。2人のこと嫌いになるよ!」

「イルミならやりかねない。ココナを奪われるくらいなら、ココナに嫌われてでもお前を傍に置いておきたい」

「オレはそんなココナの意思が尊重されないようなことしない」

「針を埋め込むのはココナの意思のうちに入るのか?」

「ココナが苦しむのは可哀想でしょ?クロロはココナが苦しんでいてもいいんだ。酷い男だね」

「お前のようにココナの感情をいじってココナをココナでなくする方が残酷だと思うが?」

「ちょっと、喧嘩しないの!本人の前で怖い話するのもやめて!」


殺気がきつい。私に向けられているものではないとわかっているけれど、心の底から恐怖が込み上げてくる。

こいつらは目の前のことが全く見えていないじゃないか。

最後の思考は、たぶんそんな感じだったと思う。
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