ココロ

□2. 妖精は優しくない。
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さりげなく私は男達に囲まれていて、品定めするような目線とばっちり目が合った。

少し怖いけれど、私の脳みそは危ないという警報を鳴らすわけではなく、助けてくれるかもしれない人が現れたと捉えたようだ。

ここが何処なのか私は知らないのだから、現地の人に聞くのが手っ取り早いに決まってる。

そして今目の前にちょうどその現地の人間がいるのだから聞いてみるべきだ。
言葉が通じるかはわからないけれど。


「あ、あの!此処って何処ですか?起きたらここに居て困ってたんです…」

「なんだコイツ迷子か?」

「それなら、持って行くには丁度良い」

「力も弱そうだしいいのが見つかったな」


どうやら言葉は伝わるらしい。
しかし彼らは私の質問には答えず、よくわからない話がはじまった。
話が通じるということは日本国内だと思うけど、こんな所見たことがない。
少なくとも私がいた地域ではないはずだ。

彼らの言っていることはよくわからないし、私の質問に答える気は無さそうだ。
それなら違う人に聞いた方がいいだろう。
言ってから気づいたけれど、起きたらここにいたはめちゃくちゃ不審者だ。ここで目覚めたということはふせるべきだね。

そっと身を低くし彼らの視界から外れると、輪の中心から出た。
どうして私は囲まれていたんだろう。
なにか大切な話をしていると思ったので足音を立てないように気をつけて歩いた。


「さっきの小娘がいないぞ!探せ!」


後ろの方から怒声が聞こえた。
その声には聞き覚えがあって、すぐに先程の男の人の中の一人だとわかった。

あそこから離れたのまずかったのだろうか。
ここは危険だと、あいつらに捕まるのはやばいと私の中の警報がなり始めた。
警報なるのが遅い。
私の危機管理能力が低すぎることがとりあえずわかった。

下手に走って音をたてるのは居場所を伝えてしまうから危険だろう。
足音を立てないように気を配って歩いていると「いたぞ!」と、後方で叫ばれた。

さっきの男達がすごい形相でこっちに向かって走ってくるのが足音でわかる。
迫り来る足音に怯んで一瞬身体が動かなくなった。
しかし私の警報がけたたましく鳴り響いて弾かれたように足が動きだし、何が何だかわからないまま走り出す。


「こっちに来ないで!」


全速力でダッシュする。
大通りの方に出たかったけれど後ろから追ってくる彼らはそれを許してくれないだろう。

このまま全速力で行けばもしかしたら撒けるかもしれない。
私は引きこもりだったとは思えないくらい軽やかに走ることが出来ている。これが火事場の馬鹿力か。
もちろんスタミナは無いため長距離は無理だけど。
それでもこのスピードならイケるかもしれない。と思った。
しかしその小さな希望の光はすぐに遮られてしまったようで男達のスピードがいきなり上がりはじめる。


ブーストをかけるのは反則だろう。
そんなの一般人の私が勝てるわけが無い。
それが許されるのはゲームの中だけだぞ。


そう思ったのも束の間
いきなり抱きかかえられた。


「ほーら、捕まえたぞ」


そんな気持ちの悪い声が頭上で聞こえ、背筋に悪寒が走る。

一応私はおなごだぞ!
おなごの体を触るのはせくはらなんだぞ!なんて普段は全く気にもしないことに文句を言っておく。

ぜえ、ぜえと息を切らしながらもこのまま捕まってたまるか!という一心で男の顔にスーパーウルトラヒカルキックを入れた。


「グフっ!」


完全に油断していたようで、その蹴りは男の顎にクリーンヒット。自然と腕の力は弱まり、太い腕から解放され、また私は走り出す。


「クッソぉ舐めやがって!そこのお前!そいつを捕まえろ!」


1番私の近くにいた男はそう言われ、捕まえようと私に手を伸ばし体に触れた刹那。


ゴオっと白いモヤみたいなのが全身から吹き出しはじめた。


「うぉ!精孔開けちまった!」

「お前何やってんだよ!」

「ものすげぇ勢いで出てるぞ!こいつはもうダメだろう…」


ごちゃごちゃといろいろ言いながら男達はバタバタと走り去っていくが、その様子に気がつかないほど私は混乱していた。


今、あの人達精孔と言った。ということは、このモヤモヤは出したままだとヤバイあれ、ということなのだろうか。


「こ、これってもしかしてオーラ…?ってことはここって…?」


深く考えそうになって慌ててやめる。
今はそんなことを考えている場合ではない。
少し興奮気味になりながらも纏をするためにゆっくりと双眸を閉じた。
頭、右肩、右手、右足、左足へと流れていくように。
そして、ゆっくりと止まるようにイメージする。するとオーラの漏れ出て行く感覚が薄くなっていき、やがてなくなった。


「これで…ひとまずは安心かな。思ったより短時間でこれ習得できた…」


ほっと息をつき、興味本意で練、絶、をやってみると容易に出来てしまった。
そのノリで漫画ではとても難しいと書いてあった応用技をやってみようと思い落ちていた枝を拾って周をやってみると、結構簡単に出来てしまったので吃驚した。
とはいえオーラの乱れはすごいんだろうけどね。
少しだけキツさはあるけれど、思ってたより簡単だった。

あんなに憧れていた念能力を自分が扱っていることが信じられない。
でも確かに感じるこの力がその世界なのだと言う事を物語っていた。
念という存在を知らなければ、きっと私のいた世界とほとんど変わらない世界なのだろう。
建物などに違和感は感じない。
大通りに出ていないからこちらの世界の人たちがどんな雰囲気なのかはわからないが、大して変わらないような気がした。

何故来れたのかわからないけど、憧れていた世界に存在することができているのが嬉しい。
もしかしたら、あのキャラ達をひと目見ることができるかもしれない。
それなら出没しそうな場所に…


色々と考えていると、ひとつの考えにたどり着いた。


何処に行くとかの前に、私は何も持っていない。


はぁ、とため息をつきまたポケットに手を突っ込んだ。

なにもないとわかっているけど…なんか固いものがある。

指先にあたった硬いものを取り出してみると、ピンキーリングだった。


このリングには見覚えがあった。
これは私がずっと付けていたリングだ。
さっきまでは確かに何も無かったはずなのに…


少し考えてみたが、何故トリップしたのかもわからないのに答えを見つけるのとができるわけがなかった。


深く考えることはやめて許容の精神で生きていこうと心に小さく決める。
そんなことよりもせっかく親しみ慣れたリングを発見することができたのだ。
これで少しは、気休め程度は安心できるだろう。
いつもの様に左手に付けた瞬間突然リングが光りだし、 ぎゅっと思わず瞳を閉じてしまった。
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