ココロ
□10. 私は何も悪くない
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魔法陣を使って貯蔵室から出てきたら、そこには見覚えのある人がいた。
「キミだれ?オレはイルミ=ゾルディック」
私を見るとすぐに自己紹介をされた。
私は彼が誰なのかを知っている。何故なら私の推しの一人なのだから。
それに貴方、そんな簡単に自己紹介してもいいんですか…
じっとこちらを見つめられるといろんな意味でドキドキする。15年は寿命縮んだ。
というか推しが目の前にいて、そして私に自己紹介をしているという事実がまず受け入れられない。
このクソみたいなファミリーの暗殺にイルミほど腕のいい暗殺者など必要ないはずではないか。
いやいや、こんなことを考えている場合ではない。
彼は私なんかの名前を尋ねるために名前を名乗ってくれたのだ。
はやく名乗らなくては。
私の名前を聞くためではなくて、ただの気まぐれだと思うけれど。
「え、っと、私はよろず屋ナイトメアのヒカルです。よろしくお願いします」
この状況でなにをよろしくすることがあるだろうか。いやない。
ていうか私のこの中二病感満載な店名、ナイトメアを名乗るのめちゃくちゃ恥ずかしい。
中二病卒業し切れてない感じまじで恥ずかしい。
イルミは「ふーん」とだけ言うと私の腕をがしっと掴む。
ひゃぁぁあ!!何かした?ご無礼があったの?死ぬの?死ぬの?
店名ダサかったから殺されるのかな?
推しに腕を掴まれてる。
これはどうするべきなのだろう。
私にとって推しは影から見ていられたらそれでいい存在だ。
確かに会いたいとは思っていたが、数十メートルくらい離れたところで見ていられたらそれでよかった。
実際ヒソカだって関わりたくはなかった。そう、私は見ていられるだけでよかったのに何故か私はあいつと仲良くしてる…とは言えなくとも話し相手にはなっている。
よくよく考えてみると彼はこの世界で初めての友人…ということになるのかもしれない。
ヒソカが私のことを友人だと思っているとは思えないからきっと不思議な片思いなんだと思うけど。
いや、あいつを友人扱いする私の方がおかしいのかもしれない。
しかしこの世界に来てからお互いに名前を知っていて、普段から会話を交わすような人物はヒソカしか居ないのだからやっぱり私にとって彼は大事な友人だ。
彼がいなければ私は会話に飢えて寂しい思いをしていたのもまた事実だと思うからね。
「そっか、じゃあヒカルは、家にきてもらうね」
色々考えている間にイルミも何かを思ったようで突拍子もないことを言い始めた。
私みたいな無名の奴をなぜゾルディック家のお宅に連れていこうと思ったのか全くわからない。
もし私を殺す気ならばもう殺られているはずだから真意が分からなくて困惑する。
「ちょっと待ってくださっ‼」
私の制止も聞かず、彼は私の膝に腕を差し込むと、次の瞬間私は俗に言うお姫様だっこをされていた。
待って待って!状況が飲み込めない!
ただ強制連行コースだということだけはわかる。
「ちょっ、本当にちょっと待ってください」
「走るから、喋ってると舌噛むよ」
言葉のキャッチボールができない。助けて。
彼は私の話を聞く気は無いみたいだ。
本当に私はどうなるのだろう。
ここまでぶっ飛んだ事が起こっていると、頭が着いてきて居ないようで恐怖心は1ミリも感じていなかった。
「狼さんたち戻っていいっ!」
まだ話している途中に半端じゃない速さで走りだす。
ああ、狼さん達はちゃんと戻っていっただろうか。
いつの間にか目の前に飛行船が…
「イルミさん、本当に行くんですか?」
「なんでわざわざ嘘つく必要があるのさ」
飛行船に乗り込むとそっとソファーに降ろされる。
こういうところは紳士なのか。かっこいいよちくしょう。
そういえば、飛行船に乗るの初めてだ。
田舎から都会に初めて上京してきた人のように辺りを見回していると、「ヒカル何してるの?ここにおいで」と手招きをされる。
それならそっちに降ろしてもらいたかったなぁと思いながらも、言われた通りにイルミのところに行き向かいに腰掛ける。
「あの、どれくらいでイルミさんのお家に着くんですか?」
「そんなに離れてないよ?あと30分くらいだよ」
そんなところまで来てたんだ…魔法陣でここまで来てたから近くにどんな町があるか知らなかった。
魔法陣は知っている場所に行くことが出来る能力だけど建物の形や、そこから見える風景をしっかりと把握していれば知っているとみなされてその場所に行くことが出来るのだからそこから離れたところまで把握する必要はないのだ。
ふと窓の外を見てみると、ゆっくりと地面から遠ざかって行くのが見えた。