ココロ
□20. 存在感がない人を探せと言われても困る
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しばらく泣いていたヒカルは泣き疲れてヒソカの膝の上で眠ってしまった。
イルミは不服そうだったが特に何もしなかった。
「ヒカルには今まで通りに接するよ♠突然態度を変えられるのも嫌だろうし♣」
そう言った時何もない空間からすぅっと狼が出てくる。
狼がヒカルの近くに寄ると光を帯び始めた。
「この狼ってヒカルのやつだよね?なんで光ってるのかな」
「そんなのボクが知るわけないじゃないか♠」
狼を覆った光は人の形を象っていき、光が消えるとそこには顔の整った眼鏡をかけた男が立っていた。
「やはり、この姿は疲れますね…」
「キミ、さっきの狼かい?ヒカルの能力にはそんなものもあったのか♦」
「1人は嫌だって気持ちが心の奥底にあったせいで私がこの姿で呼ばれたわけです。きっとその気持ちが強くて無意識に能力になってしまったんだと思います」
指先の感覚を確かめるように手を開いたりとじたりしながらギルは続ける。
「念能力は絶対ヒカルさんのことを1人にすることはないでしょう?そういう気持ちがあったんだと思うんです。でもどうせなら人の形をしたものが隣にいて欲しかった。人のぬくもりを欲していたのでしょう」
「へぇ、そんな能力あったんだ」
イルミはヒカルの方に目を向け、「ひとりが寂しいならオレに言ってくれれば…」と静かにつぶやく。
だが、その声は誰に届くでもなく空間に溶けていった。
「じゃあなんで、その能力をいままでヒカルは使わなかったの?別に狼の姿のままでいなくたってよかったんじゃないの」
「いや、ヒカルはこの能力を知らないんじゃないのかい?」
無意識に能力になってしまったということは、ヒカルはこの能力の存在を知らないということになる。
「はい、そうです。やろうと思えばいつでも出来たんですけどね」
タイミングがわからなかったんですよ。と困ったように笑う。
「そうなんだ♦やっぱりヒカルは面白いね♠でも、勝手に主人の能力を明かしてもいいのかい?」
「2人とも一応ヒカルさんに少しは信頼されているんですよ。それなら教えても大丈夫かと思ったんですが…」
考えるような素振りをし、少し間を開けてまたギルは話し始める。
「しかも擬人化の効果なんて、私が考えるに情報収集や、暗殺などの秘密裏に動く場合にしか使わないと思うのです。でもヒカルさんはわざわざ擬人化の能力を使わなくてもそんなことくらいできますし、もし仮に使うとしても、ヒソカさんとイルミさんの前でコソコソしなくてはならない事態にはならないと思うのですが、違いますか?」
「一応が気になるけど、確かにそんな事態にはならないよ。いつもヒカルが話しかけてた狼と話せるなんて思ってなかったからそっちの方が興味あるし」
「私もあなた方とお話するなんて思ってなかったです」
3人(?)でしばらく話をしていると
ヒカルが寝返りをうってヒソカの膝から落ちた。
「なに落としてるのさ」
「冷静に言うところじゃないですよね。ヒカルさんが怪我でもしたらどうするんです?」
するとゆっくりとヒカルが起き上がり、「痛い……なんか今日とことんついてない…」と言いながら頭をさすり、目を見開く。
「だ、誰!かわかんないけど眼鏡だ!」
ヒカルは見覚えのない人物をまじまじと見つめ、原作に居なかったと首を傾げている。
「あ、あの…」
ヒカルは大きく目を見開くと「えっ…その声…ぎ、ギル?」と恐る恐る尋ねた。
「はいそうで「なんで!」あなたの能力です」
そう言ってイルミ達に説明したことをヒカルに説明する。その説明を聞いて彼女はとても驚いていた。
「ギル…」
「なんでしょう?」
少ししゅんとして申し訳なさそうにうつむく。
「なんかごめん…」
「何故です?」
不思議そうにこちらに視線を送るギルに「し、死体処理係の件だよ…」とぽつりと言う。
「何故謝る必要があるんです?私達は本来生肉を食べて生きてるんです。何を気にする必要があるんですか」
「なんかこの姿だと申し訳なくなってくる。あっ!リンゴ食べる?」
狼と人間では味覚に違いがあるのか分からないけれどもしかしたら味覚が研ぎ澄まされて更に美味しく感じるかもしれないと思い、ヒカルはそんな提案をしてみる。
「すいません。時間切れです。元の姿に戻りますね」
「時間切れって、何それ!」
そんなの聞いてないぞ!と喚くヒカルに「この姿にまだ慣れてませんからね」と言い終えるとすぐにぽんっと効果音が出そうな感じで元の姿に戻った。
「あー…リンゴ…」
「そんなにやらせたかったんですか。慣れていないのもありますがヒカルさんの精神状態がしっかりしていれば念が乱れませんから長時間出ていられますよ」
少し困った顔をしてヒカルの隣に座る。
「狼の姿になるとなんて言ってるか全くわからないね」
「もうそろそろ誰か来そうだ♦イルミ、変装しないのかい?」
時間を確認し、そして少しずつ近づいてくる気配を感じイルミにそう言った。
「そうだね。しておくよ」
そう言って変装しているイルミの隣で私はリンゴを取り出して腰に刺していたナイフでリンゴを切っていた。
果汁がつくからこれが終わったらすぐに洗おう。
このナイフを買ったはいいがほとんど新品だ。
何が使える時があればいいけど。
ゴゴゴゴゴという音が部屋に響き半蔵が入ってきたがヒカルはそんな事には目もくれずにリンゴをうさちゃんしていく。
何かをしていないと暗い気持ちになってしまいそうだから。
明るく振る舞っていないと恐怖が心を支配してしまう気がしたから。
「ギタラクルとヒソカも食べる?」
「うん♥もらうよ♦」
「オレも」
それを聞くと「わかった!」と嬉しそうに笑った。