ココロ

□21. 何も無いなか外で寝るのって変な感じがする
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前の試験のこともあって気持ち的には独りでいたいけれど、1人で行動するのも寂しいのでギルを召喚して一緒に行動してもらうことにした。


「よし、じゃあ自分で頑張って探す。ギル行こう?」

「ほんとに1人で大丈夫かい?」

「大丈夫に決まってるじゃん」


むすっとして答えると、「決まってないよ。ヒカルは崖から落ちるし、転ぶし、倒れるじゃん」と追い打ちをかけられる。


「そ、それはギルに助けてもらうもん」


語尾がだんだんと小さくなっていくのが自分でもわかる。
正直狩れるかについては問題ないけれど、この状況で生きていけるかが心配なのだ。
いざとなれば魔法陣で帰ることができるけれど変なところに踏み込んで死ぬみたいな雑魚な死に方をしそうだと自分でも思う。


「結局ギルに頼ってるじゃん。それは大丈夫って言わないよ」

「1人で行けるもん!バイバイ!ついてこないでね!」


私はギルと逃げるように森の奥へと消えていった。
こうでもしないと着いて来られると思ったからだ。

しばらく走ってから周りを確認してみると誰も着いてきていないようだった。


「つかれた」


ひとりになると素に戻ることができる。
正確には隣に狼がいるけれどこれは私の能力だから私みたいなものだ。

さっきのダメージが大きい。
私の世界のことならまだしも過去まで見られるだなんて。

近くの木の根の近くに腰を下ろすと膝に顔を埋めた。

2人の前で落ち込んだらきっと心配をかけるだろうし、それに今は少し怖かった。
何も考えなくていいひとりの方が今は都合がいいのだ。

2人はああ言っていたけれど、私のことを面倒なやつだと、弱っちいやつだと思っただろうか。

実際に私の受けた苦痛なんてイルミの暗殺者になるための修行や、ヒソカの今までの生き方から比べると蚊に刺されたそうなものなのにこんなにも引きずっているのだから弱いやつには違いない。

そんな弱いやつの興味なんかすぐに薄れてしまうのではないか。

2人に見放されたら私は殺されるのだろうか。
殺されるならまだいいけれど何もされずにそのまま縁が切れてしまったらまたひとりみたいなものになってしまう。

ジンにも顔向けできなくなるような気がした。


ギルは何も言わず、私と同じように隣に腰を降ろしている。

ふわふわな毛並みと体温が伝わって温かかった。

力が抜けて何もしたくない。
試験だってなんだかどうでもいい。

とにかく今は誰にも会いたくなかった。

ふらふらと立ち上がると人のいないところを求めて歩きだす。

確実に誰もこないような所に居たい。


「そんな状態の貴方を私は歩かせられません。乗ってください」


とん、と体を押されたので言われるがまま上に乗り、ぎゅっと抱きつき顔を埋める。

ギルはケモノ臭なんて全然しなくて、むしろなんだか優しい匂いがする。

ギルは大人しくされるがままにしてくれているけれどこの温もりが寂しさを増幅させた。

この温もりは離れて行かないだろうか。
念能力なのだから離れていくことはないにしても仕方なく気遣っていたりしないだろうか。


「私は貴方の念能力なんですよ?主人に頼られて嫌な念も、主人が嫌いな念もいません」


ヒカルさんが甘えることが苦手なのは知っていますが、頼ってくれないと私だって悲しいです。なんて言ってくれるギルの言葉は信じてもいいような気がして少しだけ安心した。

私は人前ではああだから悩みも落ち込むことも無いように見られてしまうし、そもそも悩みを相談できる人間なんてあの世界にはいなかった。

だからこそ自分語りは苦手だった。

何も信じられない過去の自分が嫌だからこそ、今度こそは、と自分のことを話すことを決心したのにこれじゃあ私は何も変わらないままじゃないか。

イルミとヒソカだって私は信じようと思った。
紙の上だけではしっかりと内面までは伝わっていないということはわかっていたはずだ。

自分が想像していた人間像とは違ってとても良くしてもらったから、これが嘘だとしても、裏切られてもそれでいいと思っていたはずなのに。

ヒソカとイルミなら、と思えたはずなのにいざ話すとなると声が震え、あの時のことを思い出すと言葉が詰まった。

いや、裏切られてもいいと思っている時点で私は何も信じていないのだろう。

かすかな動物達の気配、さくさくと草を踏む音、鳥の声。それらの穏やかなものは思考をどんどん暗い方に持っていく。

私は何も考えなくても良いように目を瞑るとそのまま眠ることにした。

それからしばらくして目覚めると私は緩やかな流れの川が目の前で流れる静かな場所に寝かされていた。

さらさらと穏やかな音がまだ目の覚めていない私には心地よく感じた。

眠ったから少しだけ気持ちに余裕が出来たのかもしれない。


「おはようございます。野宿をするなら水の側がいいと思いまして」


ギルも疲れているはずなのに彼は私を気遣ってくれる。

こんな状態の私を扱うこと自体疲れるはずなのに。

寂しいからという理由でこちらに引き止めているのだからなるべく迷惑をかけないようにしたい。


「ごめんねギル。いろいろ気を回させてしまって。塔の時も疲れるって言っていたし何時でも戻っていいからね」


ギルの頭を撫でてここまで連れてきてくれてありがとうと微笑みかけた。


「私は大丈夫ですよ。あの姿の時はヒカルの精神状態に左右されるんです。貴方はずっと不安定だっただけです」


今も不安定ですが自分の心の事です。焦らなくていいんですよ。と優しく言ってくれる。


「それに、私には素を見せてくれる。それが何よりも嬉しいです」


そんな些細なことを本当に嬉しそうに言うもんだから私は思わず笑ってしまった。


「ふふ、なにそれ。変なの」


今日はターゲットを探さなくていいや。

未だに気力は回復していないようなのでこういう日は探さなくてもいいだろう。

私は静かにゆっくりと流れる時をギルと過ごしていた。
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