妄想本棚

□同じ空−太公望ver.
1ページ/1ページ

【同じ空――夕陽】


 今日の夕陽は久々に見惚れる程きれいな彩りで。
 たなびく雲に山吹色の光、包み込む深みを増した青い空。
 きれいすぎて、目を閉じて物思いに耽る。

 きっとあやつも見ているのだろう。
 同じ世界でなくとも、同じ空を見上げている。
 有り得ない事だけどそう思った。

 そしてあやつは大仰に溜め息なんぞをつきながら、わしの名前を呟いているのだ、きっと。
 逢いたい、と敢えて声にせずに噛み締めてみたりして。
 随分とロマンチストな奴だから、目尻に多少の涙を滲ませているかもしれない。

 くすくすと笑いながら少し意地悪く考える。
 でも多分、間違ってはいない。

 そういう奴だから。

 ゆっくりと瞼を開くと、いつの間にか陽は殆ど沈んで、世界は闇に包まれる直前のやわらかな菫色に変わっていた。

「――よ……ぜ…」

 続く声を飲み込む。

「はー…」

 自分の思考回路に仰々しく溜め息をついてみる。
 さっきから考えているのは、ずっと、考えているのは――。


 仕方ない、そろそろ逢いに行こうか、あの気障な菫色の瞳の青年に。


〈了〉

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ