取扱注意

□ひとしずくのあなた after
1ページ/3ページ

月が熱のない光で夜を照らしている。
彩度に乏しい光は、常であれば蒼く艶めく髪を、銀(しろがね)に染めていた。
陽に晒される事のない柔肌には、青白い宝珠のような質感をもたらして。



【ひとしずくのあなた after】



余り広いとはいえない簡素な寝台の上で、くちづけは交わされた。
最初は互いの感触を確かめるように、触れるだけのくちづけが、熱を上げる毎に深く濃密になるのに、それ程時間は要さなかった。
早速息のあがった太公望を、楊ゼンは愛しげに抱き締める。
「――好きです、師叔…」
耳許で囁けば、想い人はくすぐったそうに身を捩る。
「逃げないで――」
「ぁ…あっ」
耳に舌を入れてゆっくりと味わうと、華奢な躯はびくりと固まった。
尚も耳を甘咬みして、時折柔らかな耳朶を吸い上げると、隠しようのない切ない表情と声が、太公望から溢れた。
「ん…っ、あ、あ…ぅん、楊…ゼン」
快楽に震える小さな肩から、夜着の袷を開いて落とすと――月に照らされて青白い肌があらわになった。
その肌はまるで真珠のようで――内側から光が滲むような美しさだった。
「きれい…です、太公望師叔」
華奢で白い躯は、ほんの少しの衝撃でも崩れそうな危うさを持ち、それが更に繊細さを引き立てる。
右手をとり、手のひらに唇を押し当てる。
先程注いだ酒精の香りが残っており、それを追うように舌が這う。
ほっそりとした指と指の間や付け根、浅い手のひらから手首、そして肘まで。
肌の滑らかさは心地よく、肘に辿り着くまでに幾度も吸っては舐めあげる。
二、三度それを繰り返すと酒の匂いは次第に消えたが、少年の匂いは更に甘く香った。
一方、少年は視線をどこに向けるべきか迷っていた。
青年が手から腕を愛撫する姿は非常に扇情的で――ねっとりと絡み付くように蠢く舌が艶かしい。
視覚的にも感触的にも、愛されている行為が胸を焦がしていく――。
視線を反らしたいと思うのに、眼はそこから離れない。
舌が通った後には楊ゼンの唾液が淡く照らされ、薄く色を変えた愛撫の痕。
これではまるで自分が愛撫を強要しているようで、いたたまれない程の恥ずかしさに襲われる。
「よ、楊ゼン」
やっとの事で声を絞り出すと、柔肌に耽っていた青年が顔を上げる。
「も…、もういいから…」
「ああ、すみません。夢中になってしまって」
頬にやさしくくちづけると、華奢な少年の躯をそっと寝台に横たえた。
「僕だけが愉しんでいては――物足りないですよね」
僕とした事が独りよがりはいけませんね、と著しく勘違いをしている。
かえってねだってしまったような結果に、太公望は懸命に訂正を申し入れようとした。
「いや、あのな、そうでは――っ、あぁ…っ!」
「躯、冷えていませんか?」
大きくあたたかな手は首筋から鎖骨を経て胸元を辿り、唇は肩口に落とされた。
「あ、あ…ぁあ、ぅ…、ん…」
やや冷えた肩を甘咬みすると、手の後を追って唇が甘い吐息と共に移動する。
「あなたの肌は――どこに触れても甘くて瑞々しいい…」
いたずらな指先は、胸に色付く小さな実を転がす。
追い付いた唇がもう一方の実を口に含んで、こちらは舌先で転がす。
「あ、ん…あっ、あ…」
質感と温度の異なるものに同時に刺激を与えられて、太公望が声をあげる。
「師叔…かわいい…。とても淫らで――誰にも見せたくないです」
「ダアホが…っ、こ、こんな…顔、他…の、誰に見せ…る、か…!」
喘ぎながら悪態をつこうとする気の強さに青年は微笑み、白い首筋に唇を寄せる。
「あなたは――僕だけの、あなた」
胸の実は今や濃く色付いて、ぷっくりと育っていた。
両の実を親指でゆるりとと円を描くように転がし、じっくりと捏ねる。
「あぁ…んっ、ん、…ぁ、あああ…!」
おそらくは若干痛みを感じる程に赤く染まっているのだろうが、少年の声に苦痛の色は微塵もなかった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ