頂き物

□PRESENT
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『アミティ、お誕生日おめでとう!』


今日5月5日はアミティの誕生日。
誰だかの提案で、アミティの家で誕生日パーティーを行っている。
レムレスがケーキを焼き、魔導学校のメンバーで、アミティがいない隙をついて部屋の飾りつけを済ませた。
「しっかし、シグったら何してるのかしらね」
「遅いですね…ちょっと心配になってきました…」
シグだけが何故かいない。
たしかにシグはいつもボーッとしてるだけに見えるが、時間に遅れることはほとんどない。
「もう二時間も過ぎてるじゃないか。シグのやつ、どこかで珍しい虫でも見つけて追いかけ回してるんじゃないかい?」
「そ、それは…失礼極まりないですわね…」
誕生日パーティーというムードは全くない。
まだ来ないシグへの心配ばかりが一同の心境を暗くしていた。

「シグ…」
なかでも本日主役のアミティはシグの不在に物足りなさを感じていた。
またあの紅い左手の力が暴走して大変なことになってなければいいけど…とアミティは心の中で呟いた。
左手の力の恐ろしさをアミティ達は覚えている。
この前は何人ものアルルを始めとする魔導師の力を借りてやっと抑えることができたのだ。
もしあの時と同じ事が起こっていたら誕生日パーティーどころじゃない。
「アタシ、シグを探しにいくよ!」
とにかくシグが心配で仕方ない。
もうあんなに苦しむシグは見たくない。
「仕方ありませんわね、皆で手分けして探しましょう」
こうして出席者総出でシグの捜索が始まった。





「シグー!どこにいるのー?」
当然のことのように返事は返ってこない。
シグがいるとなればとりあえずはナーエの森だろうと思って来てみたもののシグの姿は見当たらない。
「シグ…どこに行っちゃったんだろ…」





「ねぇ、まだ?」
森の奥の泉でシグはひたすら待っていた。
「もうちょっとだからさ…集中させてよ」
「早く、アミティが待ってるから」
「もう!五月蝿い、集中させてっつってんだよ!」
泉の中で小さな妖精がせっせと何かを作っていた。
「ほら、出来たよ、これでいいでしょ?早くそれをアミティに渡しに行っておいで!」
「おぉ、ありがとー」
シグは小さな妖精から深緑色の箱を受け取った。
「アミティ、今行く」
シグは勘を便りに物凄い速さで走り出した。





「シグいました?」
「いや、全然」
一時間ほど探してもシグは見つからなかった。
心身共にクタクタになるほど探し回ったらしい。
「そういえば…アミティはまだ戻ってきてないのかな?」
「言われてみれば…」
その場にいた全員がアミティが戻ってきていないことに気づく。
「まさか…アミさんまで…行方不明なんじゃ…」
「もう!本当手が掛かりますわね!放っておきましょう」
「ま、どうせノコノコと帰ってくるだろうし」
流れとしてアミティなら放っておいても帰ってくるだろうということになっていた。





その頃アミティはナーエの森の中心部で引き続きシグを捜索していた。
「シグ…」
アミティは半泣きになりながら植え込みを掻き分け、歩き続けた。

「アミティ、いた」
背後の方から声がした。
その声がシグであることはすぐに分かった。
「シグー!」
とにかく安心した。
シグが無事で。
安心しすぎて心身に思いっきり抱きついていた。
「ううん、シグが無事で良かった」
「心配かけてごめん、アミティにプレゼントを持ってきたんだ」
「プレゼント?」
「だって今日はアミティの誕生日でしょ?」
アミティはシグの捜索に夢中になってすっかり忘れていた。
今日が自分の誕生日であることを。
「これ、あげる」
シグは袋から深緑色の小さな箱を取りだし、蓋を開けた。
中に入っていたのは指環だった。
それが普通に売っているような安物ではないことは見て分かる。
「材料集めて森の泉の妖精に作ってもらったら時間がかかったんだ。遅くなってごめん」
「そうだったんだ…」
アミティは然り気無くシグの顔を見てみた。
なんとなくだけどシグがいつもと違って見える。
なんだかカッコいい。
「アミティ、手だして」
「え、うん」
アミティは咄嗟に右手を出した。
「違う、反対の手」
シグに指摘され、アミティは左手を出した。
するとシグはアミティの薬指だけを出させ、指環をはめた。
この時アミティは言うまでもなく赤面したまま固まっていた。
「シ、シグ…これってまさか…」
「だめかな?」
「ううん、いいんだよ。嬉しいよ、シグ」
アミティは辿々しく言葉を繋げながらシグを見た。
やっぱりシグがカッコよく見える。
何故かは分からないけど。
「さ、ウチに来て、皆心配して待ってるから」
「うん」
気がつけば辺りは夕焼け色に染まり始めていた。
オレンジ色の風景を二人でゆっくりと歩いた。
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