小説

□第1話
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春、それは新しい始まりを迎える季節。ありとあらゆる場所で節目の行事が行われ、人々が新たな環境へと身を投じる。
そして、ここもまたその一つであった。
真新しい制服に身を包み、正装した大人たちとともに生徒が歩道を歩いて行く。彼らが目指すのは、今日入学式が開催される白雲高校。その校門には“祝 入学式”と書かれた看板が立てかけられていた。その隣には誘導のためか、腕章を付けた生徒が一人立っている。

「ほんっとに奇跡に近いんだって!うち、模試でこの高校E判定だったんだから!」
「はいはい、わかったから。いい加減聞き飽きたわよ」

ふと、彼らの中からそんな声が聞こえてきた。
一人は興奮した様子で、もう一人は呆れかえった様子で、二人の母親はクスクスと笑いながら。彼女たちはゆっくりと校門をくぐる。
同じ様に次々と校門をくぐって行く周りの生徒達。彼らは順番に看板とともにその姿を写真へとおさめ、掲示板へと足を運び自分のクラスを確認する。そんな生徒の流れに、彼女達も流される様に教室へと足を運んでいった。

「良かったね、一緒のクラスで!この高校クラス替え無いらしいから三年間ずっと一緒だよ!」
「そうね。あー、またあんたと三年間一緒か…。ってか、いい加減静かにできない?さっきからずっと喋りっぱなしよ」

喜々として喜ぶ一人、それとは対照的に特に嬉しそうではない一人。
どこか諦めたように呟かれたたしなめの言葉に、彼女はニカッと笑った。

「それ無理なの、砂玖が一番わかってんじゃない?あきらめな!」

砂玖と呼ばれた女の子は小さく溜め息をつく。

「それはもう重々。……ま、何はともあれ同じクラスだし、これから三年間、またよろしくね、真子」
「もちろん!こちらこそよろしく!」

二人は互いに笑いあうと、他愛のない雑談に花を咲かせる。
もともと、人見知りをしない性格なのであろう、真子は周りの生徒を巻き込み、話を広げ、登校初日数時間にして、このクラスのムードメーカー的存在となった。

しばらくはワイワイとくだらない話題に盛り上がっていたが、チャイムと共に教師が教室へと入って来たことによりその話は中断された。
黒板の前の教壇に立ち、自らを担任ではないと言った教師は生徒達を着席させ、入学書類を配布する。軽く入学式について説明した後、教師は生徒達を率いて体育館へと向かって行った。

体育館へと行く途中、真子はふと人影を目に留める。腕章を腕にはめたその人影はジッと入学生の列を凝視し、たまに顎に手を添え、考え込む仕草を見せていた。
真子は小さく首をひねる。そして、近くにいた女生徒に尋ねようと僅かに目を離した瞬間、その人影は跡形もなく消え去った。

(あれ?)

まるで、そこには元から誰もいなかったかのような消え去りかたに、真子は思わず足を止めた。突然足を止めた真子に後ろの生徒が追突しそうになる。なにやってんだ?そんな声をかけられ真子は再び足を動かし始めた。
不思議な人影に違和感を感じながらも、真子は体育館の中へと入って行った。


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