FAIRY TAIL

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 まさかの、置いてけぼりだった。

 首元のボタンを留めフードを被り、急いで本来いた車両に戻ると、乗り物酔いでヘロヘロになったナツの前には見知らぬ男。

『ナツ!!! 私たち…』
「魔法ってのは…こう使わなきゃ!!」

 その影が伸びて……鞭打つような痛々しい音を立ててナツに殴りかかった。

「ヒャハハハハハハッ!!!」
『大丈夫か!!?』
「く…くそ…」

 味方ではないことはよくわかったが、無抵抗なのを良いことにやりたい放題だ。少々の気持ち悪さを抑え込み、ナツの代わりに反撃に出ようと足を構える。キッと睨みつけた視線に相手は余裕綽々(しゃくしゃく)といった様子で笑みを返す。

「おや、彼の知り合いかい? キミの顔、どこかで見たような気がするんだけど…気のせいかなあ?」
『っ…知、るか……ッ!!?』

 全身が警鐘を鳴らし、フードをぐっとつかむ。と、突然耳障りな音を伴って大きく車体が揺れた。踏ん張っていたはずの足はバランスを崩し、ドスンと床に倒れこむ。
 どういうわけかいきなり列車が止まったらしい。ふらふらと立ち上がると、勢いで留め具が外れた男の荷物から不気味な笛のようなものが姿を見せていた。ゴツゴツとした荒い作りの管体、足のように五つ股に分かれた先端、三つ目のドクロ。

「み…見たな!!」

 その笛がどういうものかはわからないが、先ほどまでの余裕はどこへやら、男は相当焦っている。そして目に映るだけで吐き気がするような禍々しい空気は……

『っ!!! こんな時に…!!!』

 ビリッと電流が走るような感覚がして、頭痛と目眩に襲われる。何だこれ……デジャヴ……?



「さっきはよくもやってくれたな」
「え!?」
「お返しだ!!!!」
『ナツ…よかった!!!』

 ハッと気づくと、右手に炎を纏ったナツが私の前に立っていた。列車が止まったおかげで酔いから回復したらしい。
 ゴォッという音を立てて燃え盛る拳を振り上げれば、男はなすすべもなく壁を突き破って別車両まで飛んでいく。

「ハエパンチ!!」
「て…てめえ〜…」
『何故にハエ…』
「キィナ!! こいつ、オレらのことハエとか言いやがったからな!!!」
『なるほど』

 なんて立ち話をしていると、車内放送を知らせるカネの音がけたたましく響きわたった。

《先ほどの急停車は誤報によるものと確認できました。まもなく発車します》

「マズ…逃げよ!!!」
『あ、ああ!!』
「逃がすかぁっ!!!」

 ジリリリリ…とけたたましくベルが鳴り、ナツの身の危険を感じ急いで支度する。
 しかし、私は男の言葉でほんの一瞬立ち止まってしまった。

「鉄の森に手ェ出したんだ!! ただで済むとは思うなよっ!!! 妖精(ハエ)がぁっ!!!」
『え…?』

 今こいつ、「鉄の森」って……じゃあ、さっきの禍々しい笛はもしかして……!!!

「こっちもてめェの顔覚えたぞっ!!! …今度は外で勝負してやぼる…」
『待てナツ!! こいつ…』

 再び動き出した列車に酔いを感じたナツは、「とう!!!」と窓を割って飛び出してしまった。
 後を追いかけようと窓に手をかけたけれど、

「おっと…キミはこっちだよ」

 ナツに気を取られて無防備だった私は、怪しい笑みを浮かべる男の魔法で両手を後ろ手に縛られてしまった。力ずくで引きちぎろうとしても手首に食い込むばかりだ。

『くそっ…』

 ギリギリと唇を噛み、私は男を睨みつけることしかできない不甲斐なさを恨んだ。




 列車はクヌギ駅で停まると、すでに構内を制圧し待ち構えていた鉄の森に占領された。

「この列車で戻ると聞いて待ちわびていたぞ、カゲヤマ」
「へへっ何とか封印は解きましたよ」

 手渡したのは先ほど見た三つ目のドクロ。そしておそらく、手渡された相手が……エリゴールだ。

「…この笛の音を聴いた者全てを呪殺する…"集団呪殺魔法"呪歌(ララバイ)!!!!」








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