FAIRY TAIL

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 とにかく、必死だった。見境なく彼女が砂嵐を吹きつけるせいで、せっかく手入れしていたのであろう草木はおろか周囲を囲む岩壁をも抉りとってしまう。風化を早送りで見ているみたいだ。しかし彼女は表情をぴくりとも動かさず、きょろきょろと辺りを見回すばかり。だから"加護"を発動させることでこの猛攻を止めることができればと、攻撃することにためらいを感じながらも"槍騎兵"をキィナへ向けた。
 予想通り砂嵐は止まった。だが予想に反してキィナは"加護"を発動することも避けることすらもしようとしない。何やってんだよ、と開いた口は彼女へ向けた言葉を発することはなかった。

「…そういうことかよハッピー」

 「グレイじゃ絶対に勝てない」。その意味を今咀嚼した。"槍騎兵"がキィナを貫く直前に動きを止め……水となってキィナの口に吸い込まれていく。待て、落ち着け。こいつの魔法は何なんだ? 木を食って、砂を使って、氷も食うのか? いや、氷は溶けて水になっていたから水分を食ったのか?
 なんてことを考えていると、ヒュッと何かが頬を掠めた。手をあてると生暖かいものが指を伝う。錆び付いたにおい、血。気づけばキィナの周りには緑が舞っていた。

 …木、砂、水、草。つまりキィナの魔法は大地の流れそのもの。こんな状況であるにも関わらず、今まで曖昧だったキィナに関する知識が面白いように埋まっていく。魔法が足場に左右されるのは、大地から得た力を魔力に変換させているからだろう。大地の祝部(ピューティアー)という二つ名は、彼女が大地の竜の子だからか。船に乗る前に森の中に走っていったのは、恐らく船体が「木」で出来ているから。さっき湖に浸かっていたのは、魔法で出来ない自己回復を促すため、といったところか。
 考えている間にもキィナの容赦ない攻撃は続く。いつの間にか当たり散らすように無差別だった攻撃がオレに集中している。体を鋭く切り裂く草葉の量はオレの"盾"を吸収することで更に増していく。キィナの魔力が増える一方で、オレの魔力は反比例して減っていく。情けねえが、もうそんなにもたねぇよ…ハッピー、早く来てくれ…


《キィナ――……》


 ハッとして顔を上げる。今、誰かがキィナを呼んだ、気がした。目の前には眩しいほどに輝く十字架。その先のキィナと一瞬目が合うと、彼女はほんの一瞬だけ戸惑ったように見えた。そして十字架越しにオレを攻撃…

「!? アイスメイク、"盾"」

 そのまままっすぐ攻撃すればいいものを、なぜかキィナは十字架を避けるように上からブレスを降らせてきた。これはもしかして、期待してもいいのだろうか…?
 今度は十字架の前に立ってみる。するとやはり彼女は手に緑を纏ってオレに向かってくる。ギリギリまで待って当たる直前に脇に避けると、彼女の腕は十字架に触れる寸前でピタッと止まって、素早く此方を向いた。
 今ので仮定は確信に変わった。完全に「キィナ」が消えてしまったわけではない。その証拠に、あんなに辺り構わず砂嵐を吹き散らし岩を抉る程の力があるにも関わらず、十字架には傷一つついていない。
 一か、八か。オレはキィナの許へ走っていき……彼女を優しく抱き締めた。









 
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