FAIRY TAIL

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――あんまり遠くへ行ってはいけないよ

――だーいじょうぶ!!! あたし強いもん!!! うさぎ獲ってくるー!!!

――あっ、こら待ちなさい!!!



 これは夢? 夢の中でレアを見るなんて久々だ。だけど、この小さな子どもは…私? ということは、これは私の記憶。なんだろうけど、こんな記憶は知らない。私が自分でうさぎを獲るなんて、到底無理な話だ。それに…この子は笑っている。驚くほど自然に。じゃあ、これは何なんだ?
 ぐるんと世界が回って、目の前には黒い服を身に纏った知らない男の人。腕に重みを、そして鉄の匂いの滴りを感じる。気づいてぎょっとした。私は川原で血塗れのうさぎを抱えていた。



――君は…

――あなた、だあれ? あたしのうさぎはあげないよ?

――その魔力は…彼女の子か。だけど僕とも少し似ている…

――何? 何の事?

――君の魔力は水を得ることで変化するんだろう? 僕に少し…見せてくれないか



 直後、私に迫る小川の水。うねるその様子は、まるで独立した個として意思を持ったよう。恐怖から狩ったうさぎを落として逃げ回るけれど、徐々に近づく水流の音に私は思わず振り返った―――






『っ!!! はあ…っはぁ……』

 濁流に飲み込まれたと思った直後、目を覚まし体を勢いよく起こした。夢と分かっていたのに、とてもリアルなその記憶は私の息を乱すのに十分すぎるほど。だけどあんなの、私は知らない。知らないのに、身体は覚えている。じゃああれは、私が感情を失う前の記憶なのか…?
 というか、ここは妖精の尻尾の医務室。どうしてこんなところに? …そうだ、リーラ。リーラに別れの挨拶をして、それで…

『っ、グレ…』
「グレイなら大丈夫じゃ。致命傷もなく今はピンピンしとるわ。
 しかし随分とうなされておったのう。どうじゃ、目覚めて少し落ち着いたか」

 急に聞こえてきた声に驚いて飛び上がる。声がした方を向くと、丸い魔水晶を手にしたマスターが椅子にちょこんと座っていた。よかった、と言ってもいいのか。あの時感じた出血の量は相当だったはずだ。ということは…ウェンディの手も煩わせてしまった。それにここまで私を運んでくるのにも…
 しかしその前に確認。

『…マスター、その魔水晶は何ですか? まさか、盗撮する趣味でも…』
「まてまて誤解じゃ!!! これはそのぅ…ここに来る前に使っていたんでな!!! そんな趣味はないから安心せい」

 そう言ってあせあせと魔水晶を目の届かないところに隠すと、真面目な顔をして再び私に向かった。

「そろそろわしにも、おまえさんの事を教えてほしいんじゃが」
『…マスターはもう、ご存知かと思っていたのですが』
「エルザとハッピーの口が固くてな、全くじゃ!!! おまえさんから直接聞きたいんじゃが、どうかの?」

 いつかは聞かれると思っていた。いくら妖精の尻尾が各々秘密を抱えているとはいえ、他のメンバーが危険な目に遭うようなことがあっては流石に聞かざるを得ないだろう。…本当は、こうなる前に出ていくはずだったのだけれど。
 しばらく気持ちを落ち着けてから、覚悟を決めて口を開いた。


『私は…地竜レアの子。大地の滅竜魔導士です』









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