ss

□半分くらい泣きたい。
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「悪いんだけど、今日は帰れない。ごめんね」

今日は、じゃないだろう。
今日も、だ。
赤司くんと僕は、3年前から同棲している。
恋人の営みというやつも、やっている間柄だ。
だけど、最近はさっぱりそういうことはない。
「……なんとなく、結論は出てるんですけどね。」
ーー浮気。
家に帰って来るのは週に1日のみ。
家に帰ってくるとしても深夜。
しかも、赤司くんのものではないだろう、甘い匂いをつけて帰ってくる。
今では寝るベッドも別々だ。
これを浮気と言わずなんというのだろう。
「…僕たちがそう長く続くはずがないというのは分かっていましたが…こんなに早いとは。」
いや、これでも長く続いた方なのか。
所詮男同士だ、こんな関係、最初からおかしかったのだろう。


「今日は、早く帰れそうなんだ。8時には帰れると思う。」
ーーそう思っていたある日。
赤司くんから、珍しく早く帰ってくる、という連絡があった。
…帰ってくる日くらい、少しだけでもご飯を豪華にしてあげよう。
ちょっとした出来心だった。
こんな日くらい。
そう思った。
僕はまだ、このくらいのことをしてあげるくらいには赤司くんのことが好きだったのか、少し驚いた。

そうして、夜ご飯の買い物をしている時。
道路の向こう側に、見慣れた赤が見えた。
「あ、赤司くん…」
そう言おうとしたとき、赤司くんの隣にいる女性に気付いた。
ーーあぁ、やっぱり。
その時、僕の中の結論は、確信に変わっていた。

「ただいま」
「お帰りなさい」
僕は、平常心を保った。
いつも通りにしていた。
もう、どうだっていいや。
「もしかして、最初から恋人じゃなかったのか」
僕は赤司くんと2人でご飯を食べた後、お風呂に浸かっているときにふと思ったことを口に出した。
それなら納得だ。
赤司くんからしたら、これは浮気でもなんでもない。
僕たちは、恋人なんかじゃないのだから。
「俗に言う、セフレってやつですね」
そうか。
うん、納得。
その言葉は、意外にもストン、と心の中に落ちてきた。

お風呂から出ると、ケータイが着信を表示していた。
それは、大学の友達からの、合コンの誘いの電話だった。
ちょうどいい。そこで恋人でもつくろうか。
僕は今、フリーだし。

「お先にお風呂いただきました」
電話を終えて、リビングに行くと、赤司くんは眼鏡をかけて本を読んでいた。
僕の声に反応して、赤司くんが顔をあげる。
「あぁ、ほら、こっちおいで、髪乾かしてあげるよ」
「いいです、自分でできますよ」
「なんだ、今日は随分と素直じゃないな」
今日は、というか…そんなことをしてもらった記憶は僕の中にはないんだが。

「赤司くん」
「ん?」
赤司くんは笑顔だ。
「僕、明日合コン行って来ます」
「……………は?」
「明日は赤司くん、帰ってこないですか?一応、言っておいた方がいいかと思って」
「…いや、テツヤはなにを言っているんだ?合コン?何をしに行くんだ」
「いや、僕もそろそろ恋人の一人でもつくろうと思って」
「……テツヤ」
「はい?」
なにかまずいことを言っただろうか。
「お前の恋人は僕だ、そうだろう?」
「…え、君恋人いますよね」
「僕の恋人はテツヤだが」
「いやいや、女性の」
「何の話だ」
「…赤司くんは、恋人の一人をも忘れてしまう人だったんですか?」
「それはお前だろう。本当に何を言っているんだ」
おかしいな。
僕たちがもし恋人なら、あの女性は誰だったんだろう。
「…えっと、赤司くん、最近は恋人さんの家に帰っていたのでは」
「仕事だと言っただろう」
「え、いやでも今日茶色の髪の方と歩いていましたよね?」
「………もしかして、お前僕と秘書が付き合ってると思ってたのか?」
「え?」
秘書?
「茶色の髪で眼鏡をかけているやつだろう?あいつは僕の秘書だ」
「じゃあ、甘い匂いは」
「甘い匂い?…あぁ、取引先の娘の匂いか」
途端に、赤司くんは苦い顔をした。
「あっちの娘に好かれてしまってな。でも品もないしうるさいだけで、本当に煩わしいだけだ」
「…そう、なんですか」
じゃあ、僕たちは恋人で合っていたのか。

「…納得したか」
「はい、勘違いでした、すみません」
「はぁ、お前も馬鹿なやつだな。僕がお前以外を好きになるわけないだろう」

「…はい」


目から水が溢れてくる。
それはちょっとあったかくて、しょっぱかった。
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