Bakubomb

□You mean so much to me
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 スピカの死から長い年月が経った。
 シリウスは彼女から引き継いだ十字星を胸に携え、宇宙石を取り返すべく幾つもの惑星を飛びまわった。彼はアルタイルに幾度となく勝負を挑んでは返り討ちを余儀なくされていたが、ある星で出会った爆炎の戦士によってようやくアルタイルの尻尾を捕まえることができたのだ。
 そして復讐を終えた今、彼は再び虹の宮殿に舞い戻ってきた。昔と変わらず虹は美しく架かっていたが、花壇には時の経過を感じさせるように雑草が生い茂っている。

「随分、長かったな」

 シリウスはひとりごちると、その手に宇宙石を持って花壇へ歩き出す。雑草とともに咲くアネモネたちに囲まれて、墓標がひとつ建てられていた。彼女を地に還らせたときには真新しかった石の表面は、誰も参りに来ないうちに緑の苔でうっすらと覆われていた。
 彼はその傍らで持っていた宇宙石をかざしてみる。立方体の中に広がる小さな銀河は、奪い返したときと同様に煌々と淡く光っていた。昔、彼女が祈りを捧げた時のような明るさまでは戻らない。

「柄にもなく、私は奇跡じみたことを考えていたのか……」

 反応のない宇宙石を見下ろして、シリウスは悔しさに表情を歪ませた。彼は、宇宙石を取り返せれば、死んだ彼女が蘇ると思っていた。いや、妄信することでそれを生きる糧にしてきたのだ。しかし、目の前の墓標は依然として沈黙を保っている。
 感じていた責苦も、仇であるアルタイルたちを葬れば消えてくれると思っていたのに、後に残ったのは彼女が死んだという事実だけ。やり場のない彼の思いは他の惑星に八つ当たりとなって吐き出された。

「君が生きられなかった世界に、下等な生き物が存在していると思うだけで不愉快だ」

 彼は打倒アルタイルを掲げて共闘してきたボンバーマンを迎え撃つべく、決戦をこの地に選んだ。スピカのいないこの世界でのうのうと生きる惑星の住人たちが腹立たしい。彼は、いずれここへ乗り込んでくるであろうボンバーマンを彼女に捧げる生贄とするつもりでいた。

「彼らが滅べば、君の無念も少しは晴れるだろうか」

 シリウスは墓標に問いかける。その答えはやはり聞くことができない。ただ風が、静かにそよいでいるだけだった。
 どんなに尋ねても、彼女は何も語らない。記憶の中の彼女は、陽だまりの中で揺れているというのに。祈りを捧げる清廉な横顔も、皮肉を真に受けて怒った顔も、瞳に涙を浮かべて見上げる顔も、穏やかに笑った顔も、すべて記憶の中にしか見つけられない。

「君は、私のことを恨んでいるだろうが……」

 もう届くことはないのに、シリウスはなおも墓標に語りかける。
 崖から落ちた愚か者を彼女は笑うだろうか。だから言ったじゃない、とでも言って呆れるだろうか。
 どんな恨み言でも構わない。ただ今は、彼女の声が聞きたい。

「私は、君を想っていたよ」

 紡がれた愛の告白は、誰に受け止められることなく空気になって消えていく。足元に生えるアネモネたちが慰めるように風に揺られていた。


Fin.
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