□たまには休もう
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そうだった。

スクアーロは何故仕事をサボってこんなにものんびりとしている理由を思い出した。
大事な書類の事も思い出し未だに大の男を抱き締めている今は機嫌が良い主をチラッと振り返る。視線に気付いていながら主は相変わらず目を閉じたままだ。昔から惹かれてやまない紅い目が見えなくても主は本当に男の自分でも見惚れるくらいにセクシーだ。なんて良い男なんだ!思わずうっとりしてしまう。
しかしスクアーロはこれから切り出さなければならない話に溜息を吐いてうんざりした。

「ボスさん」

呼ぶとうっすらと紅い目を開けて鋭い視線が見下ろしてくる。それを確認して紅い目を見つめながら重くなる口を仕方なく開いた。

「縁談の話が来てる」
「お前にか」
「茶化すなぁ、ボスにだ」
「……で?」

特に興味もなさそうに先を促すのにいささか腹が立つが気に留めない事にした。せっかく重い口を開いたのにそれだけかよと怒りたくもあったが溜息を吐いて気持ちを落ち着かせた。

「……だからどうすんだ?期待してる相手に返事しねーといけねェんだからよぉ」

拗ねてそっぽを向きながら言うスクアーロを珍しいおもちゃでも見つけたように面白そうな表情で見下ろしたXANXUSがクッ…と笑った。

「お前はどうしたい」

憮然とXANXUSが言うのにスクアーロは唖然とした。この男は俺の答えを聞いてどうするというのだ。それともこちらの反応を見て面白がっているのか。
こちらの答えなんて当に知れているというのに、最愛の男を殴りたくなった。
殴りたい程好きになってしまった事を心底恨みたくもなった。けれどこの男の為なら自分の命を投げ出せる程、心底好きなのだ。なんて達の悪い男なことか!!

「……縁談がきてるのはオレじゃなくてボスだぞぉ」
「聞いた。だからお前にどうしたいかを聞いている」

オレが嫉妬するのを面白がってからかいたいというのか。それともオレが縁談の話を受けろと言えば大人しく受けるというのだろうか。
いや、それはない。男が大人しくオレの言う事を聞く訳がない。
ならやめろと言えば良いのか。いや!それもちょっと違うような気もする。面白がってオレから主を奪い去る女に嫉妬する様を見たいが為に話を呑むかもしれない。オレが嫌がる姿を見て喜ぶ生粋のサディストなのだ、この男は。そういう男なのだ。
だからと言って主に嘘も言いたくない。思い悩み、スクアーロは正直に言うことに決めた。

「オレがやめてくれと言ったら断ってくれるのかよ?」
「お前次第だ」
「ふん、言ったな?なら断ってくれよ。アンタはオレのボスなんだから」
「……ボスだから断るのか」
「…いや、オレの男だから」

その答えに満足したのか、XANXUSは小さく笑うと犬を褒めるようにスクアーロの頭を遠慮なく髪が乱れる程にぐちゃぐちゃに撫でた。スクアーロはされるがままXANXUSの好きにさせた。大好きな男の手だ、振り払う理由も拒む理由なんてない。
上機嫌なXANXUSを見上げるとこれは縁談を吞まないという事だろう。もしやサディストな男がスクアーロをいじる為に何でもする事から縁談を呑むかと思ったが、そう言えばこの男は独占欲が酷く強かったのだ。
束縛も酷いから同じくらいに相手からの想いを求める。幼少期の頃の扱いでXANXUSは愛というものに敏感でもっとも無償の愛を信じてない男だった。

けれど傍にいるスクアーロが18年の年月を掛けて存在そのものでXANXUSに無償の愛というものを認めさせた。だからXANXUSはスクアーロの重いともいえる愛を受け止めた。だけどスクアーロはXANXUSの為なら簡単に命を投げ出す。
その事を何かある度に責めるとスクアーロは耳が痛いようで大人しくなる。一番に信用してるのにXANXUSは心底信じられないでいた。

仕事が仕事なだけにいつ死ぬか分からない。いつまでも無事に生きて帰って来られる訳ではないのだ。
未だに現役だからVARIAは今も最強部隊と謳われているがずっと続くとは限らない。XANXUSは、だからスクアーロは今出来る限りお互いの為に時間を大切にしている。そう簡単にくたばる二人ではないけれど。
それに二人は揺り籠で8年も離れてしまったのだからその時間を埋めるかのように二人は共に行動する事が多い。仕事であったら傍を離れるが何もなければ離れることを嫌がった。
普段スクアーロ容赦なく殴って蹴って犯して口では邪険にするXANXUSだけどスクアーロの事が気に入っているし好きなのだ。じゃなかったらスクアーロは既にここにいない。剣だけの力を認めていただけなら寝室にすら近寄らせないだろう。既にスクアーロは居なくてはならない存在となってしまった。お互いに。

「…じゃあ縁談の話は断ってもいいンだな?」
「あぁ、断っとけ。いや、オレが直接言う。てめぇは大人しくしとけ。間違っても結婚しろとほざきやがったらかっ消す」
「言わねぇよぉ」

ギロッと凄むXANXUSにスクアーロは軽くキスをして宥めた。
本当はちゃんと女と結婚して子供とか作って温かい家族というものを知って欲しかったが…男の自分を抱いた所で互いの快感以外何も生みやしない。母親から狂った愛しか与えられず9代目には偽られ、裏切りを与えられた。
何故XANXUSがこんなにも辛い思いをしなければならないのか、スクアーロは苦しく思う。この男が闇の世界に君臨してるのは幼き頃から絶え間ない努力をしたからだ。なのに何故この男を心底愛そうという者がいない。
なんて、なんて酷い世の中だろう!ならば自分が愛に飢えたこの男の為、喜んでその燃え盛る腕に身を焼かれよう、愛をいくらでも声枯れるまで叫ぼう。


オレはどこの馬の骨かもしれない女にこの男を渡す気はもうない。


この男を一番愛しているのは自分だから。





End


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