□飼い主の野良猫ちゃん
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飼い主の野良猫ちゃん





「ただいま」

「お帰り、十四郎」


疲れた体を引きずりながら家の扉を開けて入ると、いつだったか、路地裏で怪我を負って倒れている所を見付けて拾った野良猫がリビングからひょこっと顔を覗かせて出迎えた。

年は俺と変わらないと思う、多分。

野良猫は紫が掛かった紫紺の髪に左目を隠す程の長い前髪、唯一覗く切れ長の右目は深い翡翠で真っ直ぐでいてキツく鋭い。鼻筋もきちんと整っており薄い唇も笑みを描いてる。

そんな綺麗な野良猫を拾ったのは単にこの綺麗な野良猫が欲しくて傍に置いたくて拾った。

すると、野良猫は何ヵ月も居座った。
別段気にはしない、寧ろここでずっと暮らせばいいと思っている。それまでに俺はこの野良猫を気に入っているのだ。

ただ野良猫は何もせず、ずっと家の中でゴロゴロと俺の帰りを待っている。

ほぼヒモのような関係だ。

と言っても野良猫は何もしていない訳ではない。俺がホストの仕事(不本意であるが)に行っている間は家事をちゃんとやっている。仕事三昧で洗濯物や洗い物がたんまり溜まっていたが言われるではなく、野良猫は自分からやり始めた。

仕事帰りの時も例え夜中遅くに帰っても毎日出迎えた。余り取れなかった食事も野良猫が腕を振るって作るようになってからはちゃん取るようになった。食わしている身なんだが、何故か俺が世話されているような…と悩ませるが野良猫が俺の為にやっているのだから嬉しい。

ともあれ、俺はこの野良猫が可愛いのだ。



「十四郎?」

ぼんやりと玄関で突っ立っていると、野良猫の晋助が怪訝な顔をして自分を見る。

「…何でもねェ」

ハッと我に返り、靴を脱ぎながらネクタイを緩めてスーツを脱ぎ捨てるように晋助に渡す。
晋助はそれを受け取ってハンガーに掛けるとリビングにある黒のソファに体を沈ませた俺の足下に座り、足に抱き付いた。

晋助は俺が上だって分かっているのか、それともただの気まぐれなのか俺の隣には勝手に座ろうとはしないし、上から言うこともない。
まぁ…家事に関してはとやかく言われるが。


「お疲れ様」

膝に頬を乗せながら俺を見上げる晋助。
その頭を撫でながら何かを待つように見つめれば、意図に気付いた晋助が体をソファに乗せて口を合わせてくる。

晋助は俺が何を望んでいるのか分かる。

いつもいつも俺がやって欲しいこと、して欲しいことを黙ってしてくれる。
何故分かるンだ、と聞けば目線がそう言っているからと返された。だからか、俺はそれを聞いてから何も言わず目で話しているような気がする。それでも晋助は本当に分かっているようで会話がなくても楽で大丈夫だった。

今も、キスを促すと口付けてきた。

なんて嬉しい拾い物をしたンだろう。
もっと、と腕を首に回せば抗うことなく晋助は口を割って舌を滑らせる。


「ンッ…」

自分のものとは思えない声が鼻から出るが気にはしない、晋助の熱い舌が口の内を這い回るのが気持ちがいい。

男同士だと言われようがどうでもいい。
俺はこの綺麗な野良猫が身体の底から欲しているのだから他人の意見に従うつもりはない。

何故そこまでこの野良猫に執着するのかは俺でも分からない。だが分かっているのはこの野良猫を野放しにはしないことだけだ。

この野良猫を他に渡さない。


「…晋助」

離された唇の隙に掠れた声で呼べば、晋助はいやらしく目を細めて酷薄に笑みを浮かべると猫のように頬を擦り寄せて甘える。

その仕草は本当の猫のようで可愛い…。

下の名前以外、素性が分からない野良猫。
だがそれでもいい、ここにいる間は俺が飼い主でこれからもそれが変わることはない。
それに、いつかは話す日が来るだろうからそれまでに長く待てばいい。

俺はこの野良猫を手放す気はないのだから。


なんて思いながら晋助の耳に甘噛みすれば、仕返しとばかりに首筋を噛まれてソファに押し倒される。

下から見上げると舌舐めずりしてギラギリと熱の籠った目で俺を上から見下ろしている。
その目を見たらドクッと身体が火照った気がして熱い。

「…十四郎」


晋助が俺の言葉を待ってる。

言葉の代わりに、腕を伸ばし首に回して引き寄せると軽く口付ける。

それを良い返事と解釈した晋助は薄く笑った。



end

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