□笑顔
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笑顔





「高杉」

「ん…?何だよ、土方」

土方は窓辺に寄り掛かる男に声を掛けて不敵に薄笑を浮かべる高杉が振り返る。
俺はそんな奴の顔をじっと見つめた。


やっぱり……。


俺は確信した。

高杉は不敵に笑っているように見えるけど目が哀しそうだ。
何でもないように振る舞って自分を奥底に隠しているがちゃんと高杉に向き合おうとした俺にはやっと見えた。

最初はただの狂気を纏った過激派テロリストだと思っていた。

けど時折、風景を眺めながらどこかぼんやりと遠くを見つめているのを見掛ける。
その時はこんなに近くにいるのに遠くに感じられた。

だから、見て見ぬフリはやめてちゃんと向き合おうと思った。


そう思ったら高杉の心境を少しだけ分かった気がしたんだ。

今も、高杉が奥底で泣いていることが普通に分かる…何で今まで気付かなかったんだ?
今までも高杉が我慢して俺の隣で笑いながら過ごしていたのかと思うと自分の鈍さ加減に嫌になる。

別に高杉に同情してる訳ではない。

高杉だって同情される覚えはないと一刀両断するだろうし俺も同じ立場だったら御免だ。

ただ俺の隣にいる時は甘えて欲しい。

奥底に隠している自分を俺に見せて欲しいし、辛いなら隠さないで欲しい。


「土方?」

ずっと何も言わないから高杉が怪訝そうな顔をする、そんな高杉に近付いて抱き締めた。

目を見開いて驚く高杉の紫紺の髪を優しく撫でて更に抱き締めた。


「土、方…」

困惑の声を出す高杉に言う。


「俺にはちゃんと甘えろよ」

「は?」

「…いつも無理して笑っている」

「!!」

「…今まで気付かなくて悪い…でももう無理して笑うなよ、話さなくていいから俺といる時はちゃんと俺に甘えてくれ…」

「……、」

「ちゃんと向き合うって決めたんだから…。だから俺がお前に甘えてる分、お前も俺に甘えろ…無理して笑うな」

そう言い聞かせると黙っていた高杉がいきなり俺を押し倒した。

「っ…高杉?」

「……バァカ…」

高杉を見上げると、困ったように眉を下げて泣きそうな顔で笑っていた。

初めて見るその表情に腕を伸ばして高杉の頬に触れると、高杉はそのまま俺の手に擦り寄っては体を倒してギュッと抱き締められる。


「……今までも、十分お前に甘えてたさ…」

いつもの艶を含んだ声とは違い、掠れた声で小さく呟く高杉に俺は小さく笑うと頭を撫でながらコツンと頭をくっ付けた。


「足りねェよ…もっと甘えろ」

そう言えば高杉は何も言わず更に抱き着いてくると俺の肩口に顔を寄せる。
すると高杉の息が首に掛かってくすぐったい。

……もしかして、甘えてくれてンのか…?

普段よく喋る訳でもない高杉だが、今の高杉は更に口数が少なくただ密着しているだけ。

強がりじゃなく…ただ甘え方が知らないだけか、と高杉が可愛く思えた。

今まで誰にも甘えられなかった分、俺が高杉を甘えさせようと決意する。


「晋助」

「………。」

顔だけ横に動かして見下ろすと高杉が無言で俺を見上げ、何だ?と先を促す。

促された俺は子どもに言い聞かせるように、高杉の背中をあやしながら言った。


「…俺の隣では無理して笑うなよ?それからこれからは俺がお前を甘えさせてやるよ」

「……あァ」

不敵の笑みではなくあどけなさのある笑顔で高杉は微笑み、土方は高杉の本当の笑顔を見れた気がした。




end

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