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□最高の日
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最高の日
温もりがない。
「っ!?」
突然何だ、と思うかもしれないがそんな事はどうでもいい!
目はまだ覚めないものの、微かに覚醒しきった頭で手探りにいつもなら隣にいる野良猫を探すが物家の空でそこは冷たく冷えていた。
居ない、そう確信ついた瞬間瞼を開けると勢いよく起き上がり周りを見渡す。
やはり…、居ない。
こんなことは初めてだ。
俺より真っ先に起きるが野良猫はいつだって俺が起きるまで傍にいてくれる。
一度もこんなに冷たく冷えたベットを感じた事がない。別に寝室に居ないからと言って何なのだと思うかもしれないが、俺にとっては大事なことなのだ。
朝起きて真っ先に見つめるは愛しき野良猫。
あ、俺が野良猫を溺愛しているように聞こえるが夜は俺が愛してもらっているからな。
とまぁ、それは今は置いといて。
兎に角こんなことは初めてだから焦ってる。
こんなことを考えているのだから大丈夫だろと思っているかもしれないがかなり童謡しているし今も寝室を飛び出している。
寝室を飛び出して他の部屋を見たが野良猫の姿は見当たらない。一階に下りて台所、風呂場、お手洗いといった様々な所も確認するが希望もなく見当たらない。
残りはリビング。
最後の希望を持ってドアノブに手を掛ける。
もしここにも居なかったらどうしょう…。
物凄く不安で手が震えるが何とか力を振り絞ってリビングのドアを開けた。
そこには、
―――――居、ない……。
パパパーンっ!!
「――っ!?」
と思ったがドアを開けた瞬間、クラッカーの明るい音と中に入っていた紙やら銀やらが目の前に弾けた。
驚いて声にならない悲鳴を上げて目を見開くと目の前には先程まで必死に探していた可愛い可愛い野良猫がクラッカーを持ちながら俺に滅多に見せない笑顔を見せていた。
「Happy birthday 十四郎!!」
発音の良い祝いの言葉に固まる。
え?何これ、ドッキリ?お前、どんだけ俺が必死に探したと思っているンだ?!
と文句を言いたいのに今だ笑顔の野良猫を見れば何も言えなくなる。つか…可愛い…。
固まる俺の唇に軽く口付けながら野良猫は悪戯が成功して嬉しいのか満足そうな表情をして笑う。
「驚いたかァ?」
「……驚いたわ、阿呆」
本当に驚いた。
つか、何で俺の誕生日を知っているンだ?
余り興味がないし祝う歳でもないから教えた覚えはないンだが…と首を傾げると相変わらず俺の考えている事が分かる野良猫は何ヵ月前に免許証を見せてもらった時に生年月日を見た、と言った。
凄い記憶力だな。
素直に関心していると手を引かれてソファに座らされる。テーブルの上には当然野良猫が作ったであろう様々な料理が並んでる。
二人分にはちょっと大きいチョコケーキ。
そのチョコケーキは手作りとは思えない程の綺麗な盛り付けやデザインがされてその上には蝋燭が何本か立って火が付いていた。
手先が器用なこの野良猫は本当に完璧だ。
俺の為に作ってくれたのか、とじーんと胸に愛しさと感動を味わっていると更に感動された。
なんと野良猫が歌っている!
低く胸にすっと入る声音で野良猫がよく歌われるバースデーソングを口ずさむ。
俺はこういう感動モンには弱ぇンだよ、しかもそれが可愛い野良猫が自分の為にやってるのだから嬉し涙が溢れ出した。
「……Happy birthday to you…♪ 」
最後の綴りを歌い終えて、チョコケーキを前に出される。野良猫を見れば促される。
促された俺は涙をそのままに願いを心の中で唱えて蝋燭の火をふーっ、と消す。
すると野良猫は拍手を再度見惚れるくらいに微笑んで言った。
「Happy birthday 十四郎、十四郎が生まれてきてくれて嬉しいぜ」
「……っ、ありがと…晋助」
くさい台詞だが単純に嬉し過ぎる。
また涙腺が壊れだして先程よりも涙が止めどなく溢れた。そんな俺の前に来て野良猫は俺の目に口付けを落としながら涙を舐める。
その首に腕を回してキツく抱き付くと抱き締め返された。嬉しくて知らずに笑っていた。
誕生日だとか祝うとか下らないと思っていたのだが愛しい人に祝われるとこんなにも嬉しいものなんだな。
今度はこの愛しい野良猫の為に祝おうか。
そんな事を密かに決めて二人で俺の誕生日を楽しく祝った。まだ夜までには早いがちゃっかり激しい運動もした。
5月5日はまだ長い。
仕事を休んでこの特別な日には1日中二人で愛し合うのもいいかもしれないな。
キスをして、体を重ねて二人で笑い合った。
(晋助とずっと一緒にいられますように)
(1年に1回だけのこの特別な日は)
(貴方と過ごす大事なハネムーン)
end