□鎮魂歌の雨
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午後の2時過ぎ




ガチャンっ!とガラスの割れる音が部屋に響いた。

ザンザスは眉間にシワを寄せ、拳から抑え切れない憤怒の炎を制御しょうと自ら抑えつける。

「ぐっ・・・・・・!」

しかし、自分でも抑えきれない膨大な憤怒の炎は手から滲むように溢れ、部屋を熱気で溢れさせた。

「ボスっ!!」

先ほどガラスの割れる音にか、それとも溢れるザンザスの憤怒の炎を感じてかスクアーロが飛んで駆け付けた。

スクアーロは熱気に包まれた部屋に顔をしかめたがザンザスの状況に直ぐ様近付こうとした。

「近付くンじゃねェ・・・!」

近付こうしたスクアーロをザンザスは鋭い目で睨み付けて怒鳴った。スクアーロはピタッと動きを止めてじっとザンザスを見つめた。

油断したら今にも炎に呑み込まれそうでザンザスの頬に汗が伝う。


「XANXUS・・・」

そっと、スクアーロは一歩踏み出してザンザスに近付く。

ザンザスはそれに鋭い視線で止めるがスクアーロは無視して近付き、ザンザスの目の前で歩みを止めた。


「っ・・・死にてぇのか」

「俺は死なないぞ」

距離を取ろうと後ろに下がるザンザスを追い掛け、スクアーロも一歩前に進む。炎が暴れ、焼けるかもしれないと忠告するザンザスにスクアーロはキョトンと不思議そうに首を傾げた。

この距離でさえ、既に熱い筈なのにスクアーロはそんなこと微塵にも出さずあまつさえザンザスに手を伸ばそうとした。

「触るなっ・・・!」

「大丈夫だ、XANXUS。俺はアンタの炎でなら殺されても嬉しいだけだ」

何が大丈夫だ、とザンザスは苦情に顔を歪ませて炎を抑え付けようと奮闘する。
スクアーロは更に生身の手を伸ばして、ザンザスの頬に触れた。
チリッと熱に焼ける感じがあったがスクアーロはそのままビクッとザンザスが顔を反らそうとするのを許さず両手で掴み自分の方に向かわせた。

「大丈夫」

二人の視線が絡むと、スクアーロはニコッと微笑み指を滑らせて後頭部に回しザンザスを抱き締めた。身長的には抱き付いたという感じなのだが。

ザンザスは目を見開き抱き締められたまま何も反応出来なかった。

けれどスクアーロが密着したことで気持ちの変化も合って炎は未だ消えてなくても収まってきている。
ザンザスはスクアーロの背中と腰に腕を回し細い体を抱き締めてその肩に顔を埋めて目を閉じた。

スクアーロの体温と体臭を感じていると不思議と気持ちは鎮まっている。

これも雨属性の特徴である鎮静だからか。
しかしいつも騒々しい鮫のクセに、鎮静とは笑わせる。どっちかというと荒々しい嵐の属性の方が似合っているが、嵐の属性を持っているのは自分の方だ。
大空と嵐、この二つの属性を持っているからこそ天空ライオンのライオンとタイガーのミックスであるライガーのベスターがいる。

似合わなつつも、この鮫ほど雨属性が合っている者はヴァリアーには居ない。
全てを洗い流す鎮魂歌、コイツほど俺の苦しみを鎮静させる雨は・・・居ないだろう。
しかしこんな抱擁だけで気持ちが落ち着くのも癪に障るのも挑めない。

高ぶっていた炎は抑えることに成功した。気持ちも落ち着き、ザンザスはゆっくりと息を吐いた。


「XANXUS・・・」

落ち着いたことを分かったのかスクアーロは少し体を離してXANXUSの顔色を窺った。
疲れが若干顔に滲んでいたが怪我もなく体調も特に大丈夫なようでスクアーロは安堵の溜息をそっと吐いた。

「急にお前の炎を感じたから驚いたぞぉ!大丈夫かぁ?」

「フン、手が滑った」

「いや、手が滑っただけでこれはちょっと無理があるぞぉ・・・」

無理な言い訳にスクアーロは苦笑した。しかしXANXUSが無事なら、何でも良いスクアーロは何も言わなかった。

ガラスで散乱している床の後片付けの掃除を下っ端の部下に任せてスクアーロはXANXUSの手を取り隣の部屋の寝室に引っ込んだ。


「膨大な炎を放出したんだ、体の調子はどうだ」

XANXUSをベッドに座らせ、所々炎で焼き付いたYシャツを脱がして体温の高くなっている肌に触れた。

フン、と鼻で笑いXANXUSは僅かに目線の高いスクアーロを見上げて肩に掛かってる白銀の髪を一束摘まんだ。

そのまま引っ張ると細い体は引力に逆らわずぽすっ、とXANXUSの腕の中に収まった。

「俺を誰だと思ってる」

「ふふ・・・流石だな。けど、やはりまだ心配だから暫くは安静にしてた方がいいなぁ」

口元に柔らかい笑みを浮かべてスクアーロはXANXUSの頬をそっと両手で包み込み額をコツっと突き合わせて近い距離から紅い瞳を見つめた。

恐れも嫌悪もない、その反対の愛慈しみを孕んだ瞳を嘘偽りなく向けてくるのはコイツしか居ない。

今も、昔も、コイツは一度も俺の傍を離れなかった。数多くの暴力、無茶な任務も与えた時には嫌な顔をする、大きな声で喚くがそれでも離れなかった。

逃げもしなかった。

憤怒の炎を宿す両手にも恐れなく触れる。昔から・・・コイツはいつもそうだ、俺を甘やかすのは。

じじぃには裏切られ、周りのモノが全て偽りであろうとコイツだけは真実であろうとする、俺を傲慢にも救おうとする。

「しばらく、こうしてろ・・・」

XANXUSはスクアーロの背と腰に腕を回しキツく抱き締めて肩口に顎を乗せて目を瞑った。

そうすると薄くだが、スクアーロの匂いが掠めて鼻をくすぐった。

「・・・Si」


小さく微笑みスクアーロはXANXUSの背に腕を回して目を瞑った。



end

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