□一緒にいる意味
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ローランド帝国の広大な国の町並みが見渡せる山丘でライナは芝生に座り、何時間も前から景色を眺めていた。

いつもは怠そうに細められてる目は僅かに悲しみに染まっていて、夕日に照らされて涙を流しているようにも見える。

「ライナ」

今にも崩れそうな背中にそっと触れて、ティーアは隣に腰を下ろした。

「・・・ライナは本当に優しいね。僕らを裏切り傷付ける下等な人間を想うなんて・・・本当、バカみたいに優しい・・・」

小さく微笑みティーアはライナのブラウンの髪を撫でて自分の方に引き寄せる。逆らうことなくライナはティーアの胸に凭れて抱え込まれた。

「・・・別に、オレは優しくなんか・・・」

ティーアの言葉を否定しょうとしたが続く言葉は白く長い指に止められた。
ライナは指の持ち主のティーアを見上げた。

「ライナは優しいよ。じゃないと、人間を想ってそんな顔は出来ない」

「・・・・・・どんな顔をしてるってんだよ・・・」

自虐気に吐き捨てるライナの柔らかい髪を梳き、手を移動させて滑らかな頬をゆっくりと撫でり、見上げてくる薄く五芒星が浮かび上がる黒い目を見つめた。

「自分じゃ気付いてないかもしれないけど、ライナ・・・泣きそうな顔をしてる」

「!!」

ハッキリ告げたティーアの言葉にライナは目を見開き、次の瞬間には眉間にシワを寄せて苦しそうな表情になった。

「あぁ・・・泣かないでライナ・・・」

今にも涙が零れてしまいそうな目元にそっと唇を寄せてティーアは口付けた。
頬を包んでいた手をライナの背中に回し抱き締める。

「もう泣かなくて良いんだよ?ライナは1人なんかじゃない・・・僕がライナを守ってあげる・・・」

「ティーア・・・」

同じ黒い目に浮かぶ十字を見つめてライナはティーアの触れる手が優しいことを知っている。

「僕らは人間じゃない。だけど、だからといって安々と人間に狩られるでもない・・・だって、僕らが存在しちゃイケない理由はない。生きてて良いんだよ」

柔らかい笑みにライナは目に涙を溜めた。
今まで生きてきて、化け物だと言われ続け、どんなに人に力を貸しても結局は最後・・・怖れられては忌み嫌われた。
ガスタークのスイには生きてるだけで迷惑な存在だといわれ、リルは結晶化させようと殺そうとしてきた。

ティーアに着いてくる前も、化け物だと異形な物を見る目で見られた。

大切な奴だって・・・暴走して危うく殺そうとした。

「っ・・・ティーアっ・・・!でもオレ、お前まで殺してしまうかもしれないっ・・・」

「ライナ・・・大丈夫。止めてあげるから何も心配しないで・・・簡単には殺させないよ?」

何度も大切な人を殺し掛けた恐怖にライナは頭を振ってぎゅっと目の前の黒い服を掴んだ。
しかしティーアはライナの心配を余所に気にしていなかった。あまつさえ、暴走したら止めてくれると言う。

「・・・でも、」

「ふふ・・・ライナは本当に優しい。僕が守るからそんなことは起きない。だから大丈夫だよ、安心して。ね?」

未だ安心出来ないライナを抱き締めたままティーアは嬉しそうに小さく笑った。最初はあんなに不審がっていたのに、今では身を案じて震えている。

同じ魔眼保持者なのに。

「・・・止めてくれるのか?」

「もちろん。だってライナはもう・・・僕の、僕らの家族だから。他の家族を守る為にもライナを守るよ、僕は君が必要なんだ」

「オレ、が・・・必要・・・」

「そう。ライナが必要。だからどんなことがあってもライナを守ってあげる」

やっと安心したのか、ライナは頷いて涙を見られまいとティーアの胸元に顔を埋めた。

19才の大人なのに、子供みたいな・・・この寂しがり屋なライナが愛おしい。

ティーアはライナを隠すように腕に閉じ込めて髪の上から後頭部にキスを贈る。

裕福で何も知らない人間には、魔眼保持者の僕らの裏切られ続けられる気持ちを知らない。
この目の所為で胸に巣くう闇を知らない、知ることなんて出来やしない。

力の大きなものを殺そうとするのは脆く弱い下等な人間の愚かさだ。

だからーーー・・・、僕ら魔眼保持者が安心して暮らせる世界を作る・・・。


魔眼保持者の闇が分かるのは、魔眼保持者同士だけ。

でも僕はライナみたいに人間は好きじゃない・・・君は魔眼保持者なのに、弱くて優しくてバカだから・・・僕が守ってあげるよ・・・ね、ライナ・・・。



end

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