読
□2
1ページ/1ページ
いいのそれで?
朝の8時。
「副長ー!!」
土方は今日の仕事の配置の確認をしていると向こうから走り寄ってきた山崎から手紙を渡される。
「ん?何だコレは」
「なんか知らないですけど、副長宛てだそうです」
「あ”ぁ?知らねェだぁ?そんな怪しいものをホイホイ持ってくるな。犬かてめーは」
「え、いや・・・俺頼まれただけなんですけど・・・」
山崎の言葉をスルーし、手紙を開けて折り畳まれた紙を開き、内容の読む。
しかし読んでいく内に土方の顔は歪んでいく。
「副長?」
不思議そうに山崎が呼び掛けると土方は手紙をぐしゃぐしゃに丸めて後ろに捨てた。
「ありゃくだらねぇイタズラだ。まぁ、念の為門まで確認しにいくか」
ため息を吐いて土方は歩き出した。
慌てて山崎もその後ろに着いていく。
先程屯所に届けられた奇妙な手紙には世界を変えるプレゼントが門の前にあるという。
土方は訝しく思いながらも女の子からのプレゼントかっ?!と勘違いして着いてきた近藤と、面白そうだと着いてきた沖田を連れて門まで出向いた。
「あっ!副長!!」
どうせ誰かのイタズラだろうと思っていたが、土方の姿を見た門番の明らかにホッと安心した表情が疑問だった。
しかしもう一人の門番が押さえている人物を見つけると瞬時に目を見開いた。
手足を縄で縛られ、口元を布で塞がられたのは、
「晋助っ…!」
血相を変えて高杉に近付こうとした時、背後から首にひやりと冷たい刃を付けられる。
近藤と門番が慌てたように声を上げた。
「土方さん」
「……何の真似だ、総悟」
土方は動きを止めると背後から刀を向けてくる沖田に問い掛けた。
けれど沖田は飄々としている。
「そりゃこっちの台詞でさぁ。高杉晋助は攘夷志士ですぜ」
「だから何だ。退け」
沖田の言うことに耳を傾けず土方は首に刃が触れても気にせずそのまま高杉に近付いた。
「土方さんっ・・・!」
沖田が眉間に皺を寄せて呼び止めるが止まらなかった。
「……晋助、お前が容易く捕まる男じゃねェだろう…?どうした」
「ぷは、ァ……十四郎」
高杉の前に膝をつき、騒がないように塞がられた口元の布を解いた。
解くとやっとまともに息が出来るとばかりに高杉は深呼吸して息を吐くと土方を見つめた。
「こんなに傷が出来ちまって…一体何が遇った?」
「…………売られた…」
体の所々にある刀傷、銃創を見て土方が痛ましそうに顔を歪める。そして続いた言葉に驚愕する。
「?!…まさか、鬼兵隊に…っ?」
そんな、まさか!
ヘッドホンを付けた長身の男と紅い服を纏う女の姿を思い浮かべて土方は動揺した。
「……いや、同盟を組んでた奴らに居場所を売られた」
「……っ、晋助を裏切りやがって…!落とし前は俺が付けに行く」
鬼兵隊ではない。
そのことに土方はホッとした。
先程は疑ったが高杉に賛同し、崇拝並みに従っているアイツらが裏切る訳がなかった。
ならば先程の手紙はそいつらか。
晋助を裏切ったからにはその攘夷志士共は問答無用で叩き斬ってやらァ・・・。
怒りに目をギラつかせて目を細める。
高杉の手足の縄を取って立たせると背中に手を回す。
フラりと高杉はフラついたが土方が支えているおかげで倒れずに済んだ。思ってたよりも斬られ撃たれた傷が悪くて熱があるのだろう。
「…帰ろう、晋助」
「ん…」
頷き、足を踏み出そうとした所また刀を向けられた。今度は隠しきれない怒りの殺気を纏って。
「……さっきから黙ってりゃ…土方さん、大人しく帰れると思ってやがるんすか?帰す訳にはいきやせんぜ、敵と内通していやがったンだ、真選組一番隊隊長として斬るっ!」
「総悟」
目を鋭く細めて無表情の沖田に向き直る。
無表情なのに如何せん、その体から放たれる殺気は肌を刺す程鋭利に尖っている。土方は高杉から離れず今にも斬り掛かりそうな沖田を見つめた。
「言い訳は聞きやせんぜ。覚悟してくだせェ」
「斬るのは構わんが、晋助を斬られると思うなよ。まぁ、晋助のことバレたからな、今日限りにして俺は真選組副長を辞める…世話になったな、皆」
刀をチャキッと持ち構える沖田に土方は慌てるでもなく逃げるでもなく正面から受け止める。
そして今まで世話になったことを淡々と告げた。沖田が僅かに動揺したように刀の刃がブレた。
高杉がチラッと土方の横顔を見つめるとその視線に気付いた土方が高杉を見つめて安心させるように小さく柔らかい笑みを浮かべた。
後悔も罪悪感もない、こうなることを想定していたのだろう。
そして想定していながらも、土方は真選組より高杉を選んだ。
「トシ…」
「随分あっさりしてやすね…俺達を騙して楽しかったですかい?」
近藤が目を見開いてショックを受けたように呆けるのには流石に土方も困ったような顔をした。
「騙すって…俺は別にお前らを騙してた訳じゃねェよ。攘夷志士だって普通にしょっぴくし鬼兵隊だって斬る。けど晋助だけはしょっぴくかねェし斬らねェ。こいつは俺の恋人で唯一の人だからだ」
だから言い訳ではないが裏切ったことはないと、高杉との仲を言った。
裏切っていないとはいえ、高杉とは敵対関係の真選組がそれを許すとは思っていない。
局中法度を作ったのは土方だ。
*