読
□傍に居る理由
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ほっとけなかった。
ただ・・・・・・それだけだ。
「高杉・・・晋助・・・?」
「・・・・・・・・・」
あの満月の夜、真選組が結成されて間もなく視野を伸ばす為に見回りをしてた時・・・江戸の人里から少し離れた場所に男が一人立たすんでいたのだ。
その顔には見覚えがあった。
松平公から送られてきた指名手配書の中に数多くの中から要注意人物としてリストアップされていた。
その強さは攘夷戦争の時、国を守るが為に鬼に魂を売ったと言われるまでに凄まじかったと聞いている。
しかし・・・その面影は一つもない。
目に光がなく、今にも倒れてしまいそうに弱かった。
それなのに、目が離せなかった。
顔に影を落とす高杉を見付けた時・・・これ程までに胸を打たれたことはなかった・・・真選組副長である俺は捕まえるのでなく高杉を抱き締めた。
捕縛すれば真選組の名も瞬く間に広がるというのに。
何故か分からないが、本能が高杉を一人にしてはいけないと警告していた。
俺はその警告に逆らうことせず、敵であると知りながら高杉を懐へと抱いた。
その時を境に俺は高杉の傍に寄り添っている。
**
真選組が結成されてから早数年、江戸を取り締まる役目は真選組が優先されている。
芋侍の集まりから始まった組織だったが汗と血の滲むような頑張りからか幕府から信頼を得ることが出来、その成果あって今では将軍の警護という重大な役割を与えられるまでに上り詰めた。
それも副長の土方が作った厳しい局中法度の成果もあり、もっとも大きいのは局長である近藤の存在だろう。
近藤勲は懐の大きい男でどんな悪いゴロツキでも受け入れる所為か色んな人に好かれる。
けれど、人の良いとこを視るくせに人の悪い所を視ない為、損をすることが多い。
土方も近藤に助けられ恩を感じて着いてきているが今も高杉の傍を離れずにいる。
いや、離れずにいる…ではない。
離れようとも思わないのだ、何故なら土方は等の昔に高杉側の人間で高杉をほっとくなんざもっての他、真選組と高杉のどちらかを選ぶとしたら迷いながらも高杉を選ぶからだ。
なら何故真選組に居るかって?
ただの暇潰しである、と云いたいが先程に云った通り土方は近藤に恩を感じているからだ。
そんなこんなで忙しい土方だが、どんな時でも高杉優先で勤務中にも関わらずどんな些細なことでも直ぐに高杉の元へと向かうのである。
その甲斐もあってか、高杉は土方にだけ本心を許して自分をさらけ出せている。
昔も、今も…高杉は土方にだけ寄り添い、土方もまた傍を離れることはない。
高杉の隠れ家に帰って来た土方が玄関を通って突き当たりの廊下を進んで曲がると縁側の柱に寄り掛かっている人影を見掛ける。
そのまま歩を進めて近付くとボンヤリしている高杉の傍に膝を付く。
「晋助…」
「…十四郎…」
ボンヤリしたまま虚ろな目で月を見上げている高杉を抱き締めると土方の存在を確認した高杉は小さく名を呟いた。
戦争が終えて時代が進んでも高杉の心の傷が癒えることはなく、霧が掛かったように何も見えないのだ。
「もう・・・泣いているのかよ」
「・・・泣いてねェ」
過激派テロリストととして活動している高杉を土方は見たことがない。
出会った時よりは泣かないが、ふとした時にこうやって涙も流さず泣いては土方の傍で眠る。
・・・悲しい目は変わることもない。
こうボンヤリしていては狙われた時心配だろうが、高杉は殺気に敏感な為狙われても寸時に感じ取って失敗に終わる。過去に何度か遭遇したことがあったから高杉の強さなら心配はない。
高杉は土方の手を握って凭れ掛かった。
それを更に土方はぎゅっと抱き締めて髪の上から額に軽くキスをした。
「中に入ろ…ここじゃ風邪を引く」
「あァ…」
二人は立ち上がると部屋の中に入り、襖を閉めて抱き合ったまま下に倒れ込むように寝転がった。
片時も離したくない、そう言っているかのように高杉は土方を離さない。
「…十四郎…、」
離れることなんてないのに、と土方は思いながら高杉の好きなようにさせて体の力を抜いた。
end