読
□訪問者
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訪問者
ツ「ちょっと、聞いてるの?!XANXUS!!」
男性の平均身長より低めの日本青年が自分よりも更に背の高い背中を見上げなんとか話を聞いてもらおうと声を上げてる。
しかし、聞こえてないのか、はたまた敢えて無視しているのか男はスタスタとヴァリアー本部の大きく厳重な門を左右に控えている部下が開けて中に入る。
ツ「XANXUSっ!」
その背中を追いかけて男の上司に当たるドン・ボンゴレ10代目である沢田綱吉は後ろに護衛として連れている守護者の獄寺と雲雀、そして骸の3人を控えて続いた。
どんなに話しても聞いてくれない男にツナは早くも挫けそうで頭痛がしてきた。
仮にも俺上司なんだけど?!!
上の階へと続く広間に入り、男は後を着いてくる後ろで騒ぐドン・ボンゴレを鬱陶しく思いながらも無視を完璧に決め込む。
ツナの思考を感じ取ったかのように男は、仮に上司だとしても自分よりも劣る年下の青年に従うつもりは毛頭ない。とさっさと進む。
ツ「あ”ぁ〜〜〜っ、もうっ!聞いてってば!」
過去昔にリボーンに付けられた忍耐力も我慢出来なくなり、挫ける以前に苛付いてきたドン・ボンゴレは嵐の獄寺に宥められながら更に声を張り上げた。
月日とは怖いもので昔はあんなに腰を抜かす程に恐れていた男なのに、ここ最近はスパルタな家庭教師のおかげで肝が据わってきており男にもあの頃のような恐怖は抱いていない。
しかし張り上げたその声に反応したのは目前の男ではなく、2階の部屋に繋がる扉でバンッと勢い良く開かれた。
えっ?と呆気に取られ開かれた扉を見上げてドン・ボンゴレは目を瞠った。
男も顔を上げて扉の方を見つめる。
そこには、白いドレスを身に纏う白銀の長い髪が目を奪う、教会の絵から抜き出て来たような現実味のないその美しさからこの世の者ではないと思える女性が居た。
遠目からその白銀の睫毛に覆われた冷たい泉を連想させる淡い銀色の瞳が男を見つけて見開かれ、次の瞬間には嬉しそうに口元を綻ばせた。
ス『XANXUSっ!!』
女性にしては鋭く低いテノールの声音で、嬉しそうに口元を綻ぼすその表情にツナ達はしばし見惚れる程に神秘的で美しく綺麗だった。
階段の手摺に落ちないよう手を添え、片方の手でドレスの裾を踏まない程度に摘んで持ち上げて駆け足で下へと下りてくる。
さながら童話のシンデレラのように駆け下りて彼女は男に一目散に駆けるとその勢いのまま飛び跳ね両腕を伸ばして逞しいその首元に腕を回して抱き付いた。
ス『おかえりだぞぉ!!』
ザ「うるせぇカス鮫」
直ぐ横で喚きながら顔中にキスをしてくるカス鮫と呼ばれた彼女を煩わしそうに見下ろしながらも崩れ落ちないように枝のように細い腰を支えている。
彼女は男に心底惚れているようでうっとりと目をとろけさせてスリスリと男の頬や首元に頬擦りしている。
ス『3日ぶりだぞぉ、会いたかった・・・!』
ぎゅうぎゅうと抱き付きながら蜜みたくトロリと甘い声を出す彼女を男は鼻で笑って首元にぶら下げたまま歩き出した。
ツナ達は呆然と2階の扉に二人が消えるまで見送ってしまった。
しかし慌てて我に返ると二人の後を追いかけた。
*
ツ「えっと・・・、彼女は・・・?」
談話室の客用ソファーに向かい合って対面で腰を落ち着かせ、ドン・ボンゴレは目の前で甘い雰囲気を醸し出すXANXUSと彼女を遠慮がちに見つめた。
男は立派なイタリアーノだ。
それもイタリアンマフィアでボンゴレ10代目に匹敵する程の実力者で幼い頃から御曹司として育てられた男は今でさえドン・ボンゴレのツナよりも様々な帝王学や社交場のルール、高テクな取引に長けている。
遠巻きにされながらも未だにこの男は周りに高い影響を与えているのだ。
長けているからこそ、女性への扱い方も巧い。
けれどツナは男がこのように女性に接しているのを初めて目の当たりにしたのだ。
男は女性に対してさし当たりない会話はもちろん、相手を喜ばせる言葉もスラスラと言えるし失礼のない態度を取っている。
だけど、それでも壁があるのだ。深く踏み込ませず男がある一定の距離しか許していないのは感じ取れた。女性たちも感じ取っているのか深く踏み込まない。踏み込んだら最後、どこの誰であろうと二度と朝日を拝むことは出来ないと分かっているからだ。
そんな男が、女性を自分の中に踏み込むことを許したのだ。
男はフン、と鼻で笑うと何気なくサラッと彼女の白銀の髪を指先でいじりながらツナの問い掛けに答えた。
X「オレを殺そうとしたフリー剣士の暗殺者だ」
ツ「へー・・・・・・は、いぃぃっ!!?」
極普通に答えたもんだから一瞬流しそうになったが、今スゴく問題発言サラッと言わなかったか、この人!?
ツ「えっ!?ちょ、ちょっと、ソレどうゆう事?!何でその暗殺者を傍に居いてんの!?」
ツナは叫びながら彼女を指差し、男に問い詰める。
しかしツナも過去に自分を殺して体を乗っ取ろうとしていた骸を霧の守護者にしている時点で何も言えないのだが、都合良く忘れているようだった。
ザ「毛並みが気に入った。契約していたファミリーを全滅させてからオレが飼った。珍しい色だろう」
ツ「ちょっと!全滅させたって・・・だってその人の仲間なのに?!」
ス『オイオイ・・・本当にコイツがボンゴレ10代目かぁ?とんだ甘ちゃんだ、3秒で下ろせるぜぇ。アンタの方がよっぽど質の悪い男だな』
彼女はツナを見てせせら笑い、男の首元に猫のようにするりと擦り寄って言う。
それに傍に立って控えていた獄寺が真っ先に怒声を上げて彼女を睨み付け、雲雀と骸はただ口元に薄い笑みを浮かべているだけだ。
獄寺を宥めるツナを彼女はやはり鼻で笑う。男はそれを気分よく顎下を猫を可愛がるように撫でてやった。
ザ「弱く見えてもコイツにはボンゴレの血が流れている。だからコイツがボンゴレ10代目だ、甘くてもな」
クッと口端を上げてXANXUSはチラリとツナを見、そしてスクアーロを見下ろした。
スクアーロもチラッとツナを見たが直ぐに視線をXANXUSに戻し、ふぅん?と興味なさそうにXANXUSの首横に流れるエクステをいじった。
やはりそんなスクアーロにXANXUSは笑みを深くする。
ドン・ボンゴレに不遜な態度を取る彼女に怒りに拳を作る守護者を宥めていたら当初の目的を危うく忘れる所だった。八ッと慌ててXANXUSに向き直り、男の傍にいる彼女の確かな立ち位置を知らない為、迷いながらも極普通に切り出した。
ツ「そう、XANXUS!今日は君の結婚の事でだけど・・・」
XANXUSの結婚、その言葉を聞いて喉元を撫でられて甘えていたスクアーロはぴくっと反応し、顔をツナに向けて何の表情もなく黙ってじいっと見つめた。
深い泉のような蒼銀の瞳に見つめられツナはドキマギとした。
その瞳に見つめられると吸い込まれそうで不思議な力を感じられる。
ザ「そんなモン、する気もねぇ」
ピリッとした小さく肌を刺す空気をチラ付かせながらドン・ボンゴレを睨むスクアーロの白い頬に手を滑らせ視線を自分の方に向かせて、視線が合うと目元を親指でそっと撫でて落ち着かせてXANXUSはツナを見ずに返す。
XANXUSが取ったその行動はツナや獄寺を驚かせるには十分だった。
滅多に驚かない雲雀と骸でさえ珍しいものを見た、と言わんばかりに僅かに見開かれた瞳で面白そうに笑みを浮かべた。
気難しい傍若無人な男の性格を知ってるツナ達は男が他人を宥めるような行動をとる所を初めて見たのだ。先ず男がそんな事を出来るとは夢にも思わなかった。イタリアーノな男はそれは勿論、女性の扱いは巧いだろうがまさか目に出来る日が来るとは。
最初も二人の距離間の無さに驚かされたが、これではまるで彼女は・・・・・・。
ツナは思い至って驚きに困惑した表情を笑顔に変えてXANXUSを見つめた。
ツ「・・・分かった」
えっ?!と獄寺が慌ててツナを見下ろすも、ツナは苦笑を浮かべてXANXUSとスクアーロを見つめたままXANXUSを非難した。
ツ「必要ないなら最初から言ってよ。余計なお世話を掛けちゃったじゃないか」
不満そうに言うツナにXANXUSはフン、と鼻で笑い一瞥しただけだ。
仕方なそうに溜息をこぼし、帰りましょう、と守護者達に向けて言いツナはソファから立ち上がって出口に向かう。
その前を雲雀と骸が先に行き、後ろに獄寺が着いていく。
当然のことながら見送りはなくツナは扉を通る前に一度XANXUSを振り返った。
ツ「9代目には俺から言っておくから、おめでたいに日は絶対に呼んでよね」
にこっと有無を言わせない笑顔でXANXUSに向けて言い、最後に意味が分かっていないのかキョトンとしているスクアーロに微笑み掛けてドン・ボンゴレはその場を去った。
X「・・・・・・言うようになったじゃねェか」
既にここには居ないドン・ボンゴレに向けて笑みを浮かべて一言呟く。
不思議そうにスクアーロがXANXUS?と呼び掛けるとなんでもねェ、と引き寄せてその唇を自身の唇で覆った。
車に乗り込み、運転を骸に任せて本部に戻る帰り道で後等席で並んで座った獄寺がツナに伺った。
獄「10代目、よろしかったのですか?」
暗に9代目のお願いという命令を果たさずに良かったのかと問われていることを分かっているツナはうん、と頷いた。
その顔は嬉しそうに微笑んでおり、獄寺は首を傾げた。
ツ「XANXUSはもう相手がいるみたいだから、もう必要ないんだ」
ふふ、と笑みを浮かべ男に寄り添っていた白銀に輝く女性を思い出してツナは言った。
それに骸が嬉しそうですね綱吉、とバックミラーから見つめてくるのに、やはり微笑んで頷いた。
end