読
□恋人たちの日
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恋人たちの日
ヴァリアーのボスの部屋に付けられている小さなキッチンで白く長い指がカスタードケーキを横3等分にスライスし、セルクル型でそれぞれ抜き、底に敷いた。
その時カスタードケーキの真ん中は崩れやすいから上と下を使うと崩れにくい。
動けば遅れてポニーテールに高く上げられた白銀が揺れ靡く。
ムースの作り方は、鍋に牛乳を入れて火に掛け、沸騰したら火を止め、ゼラチンを加えてゴムベらで良く溶かす。
熱いうちにチョコを少しずつ加えて泡立て器でゆっくり混ぜて溶かし、完全に溶けたら粗熱をとる。隠し味に少量ブランデーを入れてみても良いかもな。
ムースを一端置いて別のボウルに生クリーム、ラズベリーリキュールを入れ、氷水をあてながらとろっとするまで泡立てる。そしてムースも氷水にあててとろみをつけ、ラズベリーリキュールを入れた生クリームと混ぜ合わせる。
セルクルの半分まで流し入れ、カットしたラズベリーを乗せる。
残りのムースも流し入れ表面を平らにし、この時注意しなければいけないのは、固まりやすいから手早く動くことだ。
下準備が終わったら冷蔵庫で約30分冷やして固め、固まったらさらにラズベリージャムを乗せてパレットナイフで平らにし、もう一度冷蔵庫で30分冷やし固める。
30分が経ったら冷蔵庫から取り出して予め温めたふきん等を型の周りに一瞬巻いてムースの表面を溶かし型からそっと外す。
そして仕上げにカットしたチョコとラズベリーを飾り付けて完成だ。
「・・・終わったか」
「ん、完成だぁ」
魔法のように手早く、無駄のない動きでショコラ・フランボワーズムースを作っていたスクアーロの後ろからXANXUSが声を掛けた。
スクアーロは頷き、背中に密着して後ろから抱き締めてきたXANXUSを見上げた。
丁度今出来上がったばかりのショコラ・フランボワーズムースを一口サイズに切り取り、細いフォークで掬い取ってXANXUSの口元に運ぶ。
口を開けてXANXUSはパクりと口の中に含み、舌で転がして味と感触、風味などを味わう。
「フン、悪くねぇ。」
「Grazie!それは良かったぜぇ」
満足そうに笑ったXANXUSにスクアーロは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
XANXUSが視線で促すと心得たものでスクアーロはまた一口分を取ってまたXANXUSの口元に運んで食べさせた。
「随分とまた手の込んだモンを作ったな」
「そぉか?去年はフォレノワールだろ、一昨年はトリュフで、えーと後ブランマンジェも作ったよなぁ」
視線を斜め上に過去に作ったものを思い浮かべながら指折り数える。
数えていく内に毎年この男の為だけにチョコ作ってたのかぁ・・・とくすぐったい気持ちになる。
しかも御曹司育ちだから味にもうるさかった。
「年毎に腕が上がってるじゃねーか」
「そりゃあ、ずっとアンタの為に色々作ってきたからなぁ、ルッスにも教えてもらったこともあるしよぉ」
丁度味にうるさかった頃を思い出していたからつい苦笑してしまう。
けれどあの頃はまだ良い、酷かったのは指輪戦に敗北した次の年だ。あの時はまだ傷は癒えずピリピリしてて、気分転換にルッスがチョコを作ったのに見向きもせず食べずに俺の顔にぶっかけてたな・・・。で、その後は決まって暴力で終わってた。
いつ頃だろうか、XANXUSが恋人たちの日と賑わうこの日を許し、そして俺にチョコを作れとせがんできたのは・・・。
「ラズベリーとブランデーが良い香りを出してるな」
「アンタ酒好きだもんなぁー。酔った所なんて見たことねェや」
「あんなモンただの水だ」
ソファに移り、スクアーロはXANXUSの足の間に座らされ後ろから抱き締められたままたわいもない会話を続ける。
「水って・・・じゃあ水を飲めばいいのに・・・」
飲み過ぎると肝臓に悪いだろぉ、というスクアーロの言葉にXANXUSは、コイツ・・・本当にバカだな。と呆れていることは抱き抱えられてる所為でスクアーロからは見えない。
しかし空気と雰囲気で分かったのかスクアーロは背後のXANXUSをじと目で振り仰ぐ。
「今、バカにしたろぉ」
「バカ」
「なんだとぉ!!」
ぎゃんぎゃん騒ぎだすスクアーロをものともせずXANXUSは小さく笑みを浮かべながらスクアーロの頭を犬にするみたいにグイグイと撫で回す。
髪が乱れるから止めろぉ!!とまた騒ぐのを楽しそうに見下ろしてくるのにスクアーロはまぁ、ボスが楽しそうだから良いかぁと嬉しそうに微笑んだ。
end