□休日
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休日







「あれ…?」

休日の日、街に出て切らしていたマヨネーズを買いに出てきたら土方は会社の先輩、高杉を見掛けて声を掛けた。

「おぅ、土方じゃねェか」
「…お疲れ様です、買い物ですか?」
「ん?まぁ…そんな所だろう」
「?」

曖昧に答えを濁し、否定も固定もしない高杉に土方は首を傾げた。


「とー様!!」


後方から子供の声が聞え、土方は振り返ると手に熊の着ぐるみから貰った風船を持った高杉似の子供が嬉しそうに二人に向かって駆けて来る。

「紫音」

子供が高杉の脚に突撃して抱き付くと高杉は紫音と呼ぶ子供を抱き上げた。

「紫音、ちゃんとお礼言えたか?」
「うん!言えたよ!」
「そうか、お利口だな」

紫音の頭を撫でながら褒めると、紫音は嬉しそうに頬を染めて無邪気に笑った。

その様子を見ていた土方は驚きに固まる。
高杉は固まる土方に気付くと小さく笑って紫音を抱え直すと土方に話し掛ける。

「土方、日頃から頑張っているお前に俺が飯を奢ってやるよ。この時間だ、飯まだ食ってないだろ?」
「えっ、でも…」
「いいから、着いて来い」

強引に物言いに断れなかった土方は遠慮がちにファミレスに入った高杉の後を着いて行く。
高杉と土方が頼んだのは和風ステーキとブラックコーヒーだ、好みが合うのか色々と話が出来るようで土方は最初より緊張せず落ち着いて高杉と話せている。

紫音は当然ながら、お子さまランチを頼んでいて、先程から土方を凝視している。

土方はその視線に苦笑いしか浮かべずにいて
、それに気付いた高杉が紫音を見下ろす。

「紫音、さっきからそんなに土方を見てどうした?初対面だろ、失礼じゃねェか」

高杉が軽く叱ると土方は気にしてないと言おうとしたが、それよりも早く紫音が謝った。

「…ぶしつけに見てごめんなさい、とー様の息子の紫音です」
「ご丁寧にどうも、お父さんの後輩で土方十四郎と言います」

子供ながらに丁寧な挨拶をする紫音に感心しながら土方も丁寧に返す。すると紫音はまた土方を見ると高杉を見上げた。


「とー様」
「ん?」
「この人、女の人?」
「っ?!!」

真面目に聞いている紫音に土方は危うくブラックコーヒーを吹き出す所を寸での所で押し止めたが噎せてしまった。

「ゴホゴホッ、な、なん…!?」

土方は列記とした男だ、自分では思わないが綺麗な顔だとは良く言われているが女と間違われたことは一度もない。
身体の作りも女よりガタイし、筋肉も程好く付いている方だ。
なので紫音に女と思われたことが疑問で驚きが隠せなかった。


「っ…ククッ」

高杉は真面目に聞いて来る紫音と噎せた土方の両方に笑いを隠せず手で口を覆い隠しながら肩を震わせている。
しかも気のせいか、涙目だ。


「とー様…?」

笑いを堪えている高杉に土方はイラッとくるが口を閉ざして睨み付け、紫音は不思議そうに高杉を見上げた。

高杉は笑いながら紫音の頭を撫でる。


「ククッ…紫音、土方は男だよ」
「そっか、良かった」
「ふっ、ククッ…」

笑いが収まらないのか、未だに肩を震わせる
高杉に土方はムッとしかめッ面をする。

「…一体何だよ!」
「ククッ…悪ィ悪ィ。ほら、お前も知っているだろう?桂小太郎」
「あ…?一応、知っているが…桂がどうしたんだよ」
「あいつ、金が必要でたまにバイトしてんだよ。で、この間紫音と出掛けてたらたヅラとバッタリ会ったんだよな」
「…だから?」
「ヅラの奴、カマッ子倶楽部というキャバクラに働いていて女装してたんだよ。しかもそれがまた、女みてェに髪が長ェから男には見えなくてよ、紫音は綺麗な顔の男ならみんな疑っちまうンだよ」

笑いながら言う高杉に土方は桂を脳裏に浮かべて女装…?と軽く桂に引いた。
しかし、土方はそれよりも気にかかることがあって問い掛けた。

「女だとなんかあんのか?」
「あァ、紫音は女が嫌いなんだ」
「えっ…?」

土方は驚いた表情で紫音を見つめると、土方の視線に気付いた紫音が運ばれたお子さまランチを頬張りながらニコッと微笑んだ。

「母親は…?」
「いや、母親は居ない」
「…不躾だった、悪い」
「いや、気にすんな。ちょっと昔にヤンチャばかりしててな、遊んだ女が紫音を身籠って産んだは良いが紫音を俺の部屋の前に置いて消えてな。不思議なことにそのことを覚えている紫音は女が極度の嫌いで、女装していたヅラが男でも苦手でよ」
「…ヒドイ話だな」
「俺は気にしてねェぜ?あの女のことは別に好きじゃなかったし、今では顔すら覚えちゃいねェよ」

何でもなさそうに笑いながら話す高杉に土方
はまだ若いのに、苦労ばかりだったんだなと
尊敬してしまう。

「一人じゃ、大変だっただろ…?」
「いいや?確かに一人じゃ出来なかったこともあるが紫音は俺の子供だからな。そんなの気にしたもことねェ…毎日が大切だったよ」

テーブルに肘を付けて掌に頬を乗せ、片方の手で夢中になって頬っぺたにご飯粒をくっ付けちゃってる紫音の頬のご飯粒を取りながら紫音を微笑みながら見つめる高杉。

高杉のその表情に、つい土方は見惚れた。




―――――あァ…、コイツは凄い人だ…。


「…土方?」
「…えっ?」
「大丈夫か?ボーッとしていたが、」
「あァ…大丈夫だ。その…いい父親だな」

土方が平気だと言って胸にある思いを素直に告げると高杉はぱちくりと目を見開いた。

驚いた表情をした高杉だったが、次の瞬間には嬉しそうに優しく笑った。

「…くすっ…ありがとよ」
「……っ!」

滅多なことをしないモンだなと恥ずかしくなって土方は赤面しながら高杉から顔を逸らして俯いた。
隠したつもりだったのだろうが、高杉には赤くなった耳が見えている。

高杉はくすりとその様子を見て笑った。


「…土方、」
「何だ…?」
「お前、この後ヒマか?」
「?…まぁ、特に用事はねェが」
「なら一緒に来いよ。この後紫音の行きたい所に行くんだが二人だけじゃ味気ねェ」
「……いいのか?」
「何が」
「…えっ、だって、俺は部外者だし…」
「お前なら構わねェよ。紫音もお前を気に入ってるようだし」
「そうなのか?」
「あァ。気に入られなかったら睨まれてる所なんだぜ?紫音は俺に似て気に入らない奴にはとことん容赦ねェから。なァ?紫音」
「う?」
「ククッ…気にすんな、ゆっくり食べろ」
「うん」
「だから気にせず一緒に来いよ」
「まぁ、いいけど…」
「最初からそう言えばいいンだよ」


上からの物言いに苦笑いする土方だが気付いてない内にその表情は柔らかい。



始まる、恋の予感―――。



end

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