読
□大人ですから。
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橙色に染まる晴れ渡る夕空…。
これは日本にある1つの学校の日常の話だ。
楽しそうに友達と合流して生徒が学校に登校し、真面目に勉強に専念する生徒や友達とふざけながら騒いでいたり我先にと購買の弁当を買いに競い、体育で疲れて授業最後で眠くなる者が続出して先生にチョークを投げられるという…いつものような時間が過ぎ去り、夕方の学校は殆どの生徒が帰宅して大勢の生徒が過ごす朝よりも静まり返っていた。
それでもまだ校内に残っている生徒やグラウンドで部活に励んでいる生徒の声で賑わっている。
廊下の窓ガラスからサッカー部がグラウンドを走り回ってるのを眺めてる教師がいた。
「先生、さようならー!」
廊下に響く元気な声で女子生徒が英語担任教師に挨拶をする。
挨拶された英語教師のS・スクアーロは立ち止まって振り返ると女子生徒に軽く微笑んで返した。
「おぉ、気を付けて帰れよぉ」
女子生徒は、はーいと無邪気に可愛らしく元気良く返事を返すと一緒にいる友達と一緒に階段を降りていった。
元気なもんだ。
微笑ましい後ろ姿を見送ってからスクアーロは職員室に向かう為、煌めく白銀の髪を靡かせて再び足を動かした。
それを一人の男子生徒が呼び止めた。
「スペ ルビ先生!」
「ん?どーした沢田ぁ」
沢田、基ダメツナと呼ばれる生徒に呼び止められてスクアーロはまたも立ち止まった。
「分からない事がありまして……」
この女性S・スクアーロは先月この並盛高校に新しく主任されたばかりの新米教師だ。
太股まで長く伸ばされた白銀に輝く手触りの良さそうな白銀髪、雪のように真っ白な肌に眼鏡のレンズ越しの蒼銀の鋭い眼差しとスっとした形の良い鼻筋にぷっくりとした瑞々しいピンク色の唇。
すらりとしたモデル体型で淡い水色のYシャツと黒のネクタイの上から白のベストを着込み、シャツのボタンは第二ボタンまで開けられている。
下は黒のタイトミニに黒の薄いストッキングに覆われたむちっとした太股をすらりと覗かせては健全な男子生徒を悩ませて興奮させていることを本人は自覚していない。
けれどその美しい容姿には似合わず、性格は男勝りで声が異様に大きい。
この二つを除けば面倒見の良いお姉さんだし 、優しく誠実な大人の女性なのだ。
「ありがとうございます、スペルビ先生。お陰で理解出来ました」
「分からねぇことがあったらまた聞きに来い。けどもう忘れんじゃねぇぞぉ」
「はい、ありがとうございます!さようなら」
分からなかった問題がやっと解けて安心したのかツナの表情はホッとしていた。
頭の回転はそんなに早くないが、時間を掛けて問題と向き合えば解ける問題は解けるのだから周りが言うようにツナはそんなに
出来ない奴ではない。
ただ本人のやる気の問題もあるのだが本人はそこまで勉強が好きではないみたいだからそこから何とかしないといけないのだろう。
「気を付けて帰れよ」
ツナは教科書とノートをスクールバックに仕舞うとスクアーロにお辞儀してから下で待っているであろう獄寺と山本の所へと急いだ。
踵を返して数メートル進んだ先でツナが自分のスラックスを踏んで派手に転んで通り掛かった生徒に起こされるのを見送って今度こそスクアーロは職員室の中へと入った。
(ホントに鈍くさい奴だな…)
その顔は小さく笑みを浮かべていた。
**
「ごめん、二人ともお待たせっ!!」
昇降口の下駄箱の所で待っててくれた山本と獄寺の元にツナが慌てて駆け寄り、申し訳なさそうに眉を下げるが二人はニコリと笑った。
「大丈夫だぜ、ツナ」
「慌てなくても何時間でも待ちますよ、綱吉さん」
「山本、獄寺くん…ありがとう」
ツナは感動と嬉しさで表情を綻ばせると、それに釣られて山本と獄寺も柔らかく微笑んだ。
何をやってもダメダメなのに、分け隔てなく接してくれる二人がツナは大切にしている。
友情の絆を再確認した所で三人は帰ろうとした所、あれ?とツナがふと裏門の所に目を向けると他の二人も釣られるようにツナの視線の先を辿った。
そこには先程、ツナに英語を教えてくれたスクアーロが裏校門の横に止まっている黒のメルセデスベンツの持ち主に話しかけている後ろ姿だった。
「あれってスペルビ先生だよね?」
さっきは職員室に居たのに何であそこに?と首を傾げながら立ち止まって二人を見上げたツナに二人も頷いた。
「そのようですね」
「あの黒のベンツって高い奴だよな?あれ、テレビのCMで見たのな!」
「えぇ?!先生にそんな金持ちの人の知り合いが居るんだね…」
山本の言葉にひどく驚いたツナは確かに汚れ1つなく鏡になれそうなくらい磨かれたベンツを見て一体どんな金持ちが乗っているのか気になった。
「まぁ、大人の事情?ってヤツじゃないですか」
「でも…なんか言い争ってない…?」
ツナの言葉に山本と獄寺はツナからスクアーロの方に視線を向けると、確かにスクアーロが何事か捲くし立てるように叫んでいるが内容までは聞こえてこない。
しかし二人はスクアーロはいつも叫んでるような印象
だったのでいつもと同じじゃないのか…?と思ってたがスクアーロが車体にドンッと手を着く姿で成る程、確かに怒っているなと珍しく思った。
横ではツナがひぃぃッ!!た、高い車なのにあんな扱いで…?!!!と青ざめている。
「なんか怒っているのな」
「知り合いじゃないとか…」
「え、まさか不審者…?!」
ツナが怯えるように顔を引き釣らせて警察とか呼んだ方が良いのかな…?!とスクアーロの身を案じるように視線を向けたら驚愕に元々大きい目を見開かせた。
「あ…」
「ツナ?」
「綱吉さん…?」
何か悪い進展があったのかと山本と獄寺は急いでスクアーロの方に視線を向けると丁度車から長い足が現れ、次に持ち主であろう長身の男が出てきた。
男はスクアーロの手首を徐に掴んで引き寄せるとそのままスクアーロに濃厚なキスを仕掛けたのだ。
「「「?!」」」
まさかの展開にこれには三人とも驚いて目を限界まで見開いて固まった。
遠目にしか分からないが長身のスクアーロとは対照的な黒髪の男は獰猛な野生的色味を持つ男でしかしその反対に格式をも感じさせる男でもあった。
そして甘い言葉なんて簡単には囁かなそうな男だ。男が出てきた瞬間にどこのヤの付く家業なんだと思ってしまった。
女性の中でも背の高いスク アーロよりも更に背が高く、スクアーロの腰に回す褐色肌の腕は男らしく大きく骨張っている。
スクアーロはその体を押し返そうと両手で男の胸板を押しているが男の力には到底適う筈もなく、深くなる口付けに背中を弓なりに曲げて男の腕に支えられていた。
ツナと山本、獄寺の三人はその光景を呆然と見つめるしかなかった。
三人は恋とはまだ無縁の青春の毎日で今目の前に起こっている光景は刺激的過ぎる。
京子ちゃんの事が好きなツナでも流石にキスは想像した事あるがあそこまで凄まじいとは思っていなかった。
しかし暫くすると力の抜けたスクアーロがふにゃっと崩れるように男の腕を掴んでへたり込み、原因の男は遠目からでも分かる程スッと紅く鋭い目を細めると薄く笑いながらスクアーロを支えて抱き抱えると車のドアを開けた。
草臥れるスクアーロを抱えたまま車の中に消え、数秒するとエンジン音を鳴り響かせながら車を発進させて視界から完全に消えた。
「……何、今の」
「……分かりません」
「凄いの見たのな…」
三人は訳も分からぬまま未だ車が消えた方を見つめたまま、呆然とその場を立ち尽くした。
ハリウッド映画のようなワンシーンだった…英語教師のスクアーロ先生だったけど…。
立ち直るのに三人はサッカー部の終わりの挨拶の掛け声までずっと立ち止まっていた。
***
一方、浚われたスクアーロは交通違反にも関わらず運転をする男・XANXUSの足の間に横向きに座りながら未だ草臥れたまま逞しい胸板に寄り掛かっている。
「ボス…」
「何だ」
「わざわざ迎えに来なくてもいいのに…何で来たんだぁ…」
まだ仕事中だったし課題のチェックも終わってなかったンだぞぉ?
XANXUSの胸元に頬を擦り寄せながらスクアーロは拗ねたように呟き、大胆にも第3ボタンまで開けられた白シャツから覗く火傷の古傷をそっと指先で辿りながらなぞった。
「そんな格好で一人で歩けさせるか」
「…アンタが指定して決めたんだろうがぁ」
呆れたようにスクアーロは溜め息を吐き、古傷に触れるだけの口付けを何度も繰り返した。
表向き、不満を言ってるが内心スクアーロはXANXUSが来てくれた事を喜んでいた。
愛しい男が迎えに来てくれたのだ、それが例え仕事中でも喜ばない方が可笑しいだろ?
運転中に何度も何とも言えない拙い感覚にXANXUSは丁度よく信号が赤になったことで自分の胸元を見下ろした。
自分に寄り掛かり柔らかい体を押し付けてそっと体を撫でるスクアーロは見下ろしてくる紅を見上げて小さく微笑む。
「カスが、誘ってんのか」
「ん?違ぇよ」
「…屋敷に戻るまで我慢しろ」
溜め息を吐き、宥められるような触れるだけのキスをしてくる男にスクアーロは大人しくしながら違うからと顔をしかめる。
「いや、だから誘ってねぇって…」
スクアーロの言葉など意に返さずXANXUSは青になった信号を見て車を発進させた。
垣間見たXANXUSの真紅の目の奥から揺らめく欲情の炎を見付けてスクアーロはあぁ、やっちまったなぁ…と思った。
しかし自分もまた、数分後に訪れるであろう甘い予感に期待で胸をドキドキさせてる事にうっそりと笑みを浮かべた。
END