【カオス企画SS】
□「夏、月の下に佇む君よ」
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「夏、月の下に佇む君よ」
ある夏の夜のことだった。
24時間、何時如何なる時にも監視すると言う事で、僕と竜崎はお互いの手首を鎖で繋ぐことになった。
何をするにも一緒なら勿論、寝室も同じ。
同衾はギリギリ免れたが、ほぼ隙間は無いに等しいベッドを並べて僕らは睡眠を取っていた。
常時一緒にいることにも多少は慣れ、その中で唯一、一人になれる時間とも言える睡眠を破られたのは、もう夜も更けて誰もが寝静まっているような時間だった。
「…月君、起きて下さい」
竜崎に揺り起こされたのだ。
「……こんな時間に、どうしたんだ…」
非常事態が起きたのならば寝ている僕にも分かるように連絡が来るので、これは竜崎の独断だ。
「――僕が寝坊して起こしてくれたにしては、随分と早すぎる時間じゃないか?」
と、常識外れな時間に叩き起こされたことを皮肉ったが――声が掠れて半分も威力はない。
我ながら半分寝惚けてるような声だと自覚しつつも、自分で決めた時間以外で起こされると余り寝起きの宜しくない身体は容易に思い通りにはならなかった。
「こんな時間に、何なんだよ…」
うんざりとした口調で僕がもう一度尋ねると、呆気に取られるような発言が飛び出した。
「これからちょっと出かけましょう」
「…非常識もいい加減にしてくれよ…」
思わず口を吐いてでた僕の盛大な溜息にも竜崎はいつもの無表情を崩さない。
「あるものを見に行きましょう。…とっても珍しいものですよ」
「…珍しいものって?」
――何だか以前にもこんな含みのある遣り取りをしなかっただろうか。
何だったか思い出せなかったが嫌な出来事だったのだろう、自然顔が不機嫌になる。
しかしそれも意に介さず竜崎は、
「良いものです」
と繰り返すばかり。
――そんなに僕が“キラ”じゃなかったのが気にくわないのか…ッ。
このビルに住み込み始めてからと言うもの、思わず「お前は小学生か!」と、怒鳴ってやりたくなるような子供染みた行動ばかり。
…もしかすると、これもその行動の一環なのかも知れない。
そう思うと更に溜息が出た。
溜息を吐くと幸せが逃げますよ、と余計な一言を挟みつつ、
「…行ったら分かりますよ」
とニコリと邪気の『なさそうな』顔で笑った。
「……」
じろり、と上目で僕が睨むと、
「見に行かないのですか?
じゃあ残念ですが私一人で…と言うのは“コレ”では無理ですから」
――やっぱり付き合って下さい。
どちらかが動くたびにじゃらりと金属音を立てる鎖を示しながら宣った。
それでも、不満気に押し黙ったままの僕に、竜崎はこちらが否応無しに気に掛けてしまうような言葉を投げてきた。
「今日を逃したら、もうチャンスは無いんですから」
「……?」
「気になるでしょう?…でも、一緒に来て下さらないなら一切!教えません」
駄目押しとばかりのその台詞に反射的にムカついて『やっぱり止める』と言いたかったが、大人げないので止めておいた。
「寝かせて貰えそうもないし、…しょうがないから行くよ」
気になるのは事実だったし第一、…お子様な今の竜崎に何を言っても無駄だ。
それでも、何だかやっぱり以前同じような出来事があったような気がして、後悔したけれど…もう遅い。
「行くよ」
重ねて言うと、竜崎は
「そう言ってくれると思っていました」
と、しゃあしゃあと宣いながら次には急ぎましょうと僕の手を掴んだ。
「大分時間が押してしまいましたから急がないと間に合わないかも知れません」
「わッ急に引っ張るなよ」
掴まれた手を強く引かれ、思わずつんのめりそうになった僕に鈍くさいとでも言いたげな視線を寄越す。
「ほら急いで下さい」
「…人の話を少しは聞け!!」
深夜にも関わらず二人で言い合っていたが、幸いにして最新設備の整ったこのビル内で寝泊まりしている者の眠りは妨げなかったらしく誰も起きてこなかった。
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