【未完SS】
□『池塘春草の夢の始まり。(未完)』
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『池塘春草の夢の始まり。そして、永く続く』
「渡!私は探偵になるぞ!!」
竜崎は、扉を開けるなり宣言した。
部屋で書類に目を通していた私が思わず絶句していると、また「探偵だ」と繰り返した。
…どうやら空耳では無かったらしい。
「……貴方の、今回のその気紛れは…随分とまた、」
呆れた余り、言い淀む私の言葉の先を切り取って、
「『ご両親の怒りを買いそうな』と言いたいんだろう!
ああ、ああお前のその説教は聞き飽きたから其れ以上続ける必要はないぞ!」
入ってきた時の上機嫌とは打って変わって、急転直下で不貞腐れた竜崎はどさりと勢い良くソファに身を沈めた。
…その後は、珈琲をお出ししても、書類を読み上げ裁量を仰いでもだんまりを決め込んで。
少し癖はあるが艶のある射干玉色の髪に人差し指を絡めてはしゅるりと放す、と言う子供染みた行動を延々と繰り返しているのだ。
機嫌を損ねた竜崎は、――の―――並(自主規制)に面倒な方だ。
後々のことを考えれば機嫌を損なうのは得策ではない。
素早くそう計算した私は、宥めるように声を掛けた。
「どうしてそんな…探偵になるなどと言う突拍子も無いことを思いついたんです?」
竜崎はじろり、とこちらを見上げると私の聞き方に不満があったのか眉を顰めたが、それでも私の相手をする気になったようで、
「渡は今、巷を騒がせている怪盗ローズを知っているか」
と、聞いてきた。
「存じております。
皆があっと驚くような鮮やかな手口で、次々と絵画ばかり盗み出しているという泥棒でしょう?
薔薇に予告状等という、大層ふざけたものを送り付けられているにも関わらず未だ警察は捕まえられずと新聞でも大きく取り上げられておりました。」
――それが何か?
疑問が顔に浮かんでいたのだろう。
竜崎は東洋人にしてはすらりと長い足を高々と組み、肘掛けに両肘をつき指を組んで踏ん反り返えると、こう宣った。
「そいつを捕まえるのさ」
私は思わず――返ってくる答えが分かり切っていたにも関わらず――聞かないではいられなかった。
「…どなたがですか」
「私がだ」
即答。
「……何故ですか」
「面白いから!!」
――ああッ聞くんじゃなかった……ッ
痛むこめかみを押えつつ、それでも
「………捕まえるにしても、貴方がわざわざ探偵になる必要性は全く無いのでは?」
至極真っ当な正論を言ったつもりだったが、馬鹿め、と鼻で笑われた。
「怪盗と来たら名探偵が登場するのが当然だろう。
そして、名探偵の素質十分の私がなるのは必然と言うものだろう?」