小説(DEATH NOTE)
□joker×joker[finale.](連載中)
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格子を間に挟んだまま、その隙間から彼に勧められた飲み物を断って、向かいにある椅子に腰掛けると、クスリと笑われた。
「いい加減ソレを脱いだらどうだい。
――この部屋にその恰好は随分と合わないよ」
“私”の姿を見てそう揶う。
「ここに居るのは私だけだ。
――それとも何時の間にか、ここにも『目』を入れてあるのかい?」
今の“私”の恰好に託つけて彼は痛烈に皮肉った。
確かにこの書棚に並ぶ背表紙と彼の黒い髪以外、壁も家具も小物一つ取っても全て真っ白なこの部屋では、私の姿は随分と浮いていた。
その“私”の恰好と言えば――顔を隠す為に目深に被った黒い中折帽に黒手袋、黒いスラックスにロングコートの衿を高く立てて頬さえ見えない。
全身を黒で覆っているので一種異様な姿だろう。
――そしてその姿は『ワタリ』そのものだった。
『ワタリ』――
“L”である“私”の、執事にして片腕。
彼は、“L”へ繋ぎを取れる唯一人の人間なので、その姿形から“私”への足跡を辿られることが無いよう、事件等で関わる公の席には顔や体型を誤魔化す為に必ずこの黒ずくめの恰好で現れる。
目立つことこの上ないが、逆にそれがカモフラージュになっていることも多い。
何より、“L”と言う探偵の名がこの世界で知られるようになった時には既に、『ワタリ』は常にその姿で現れていたので、今更“私”の代で変更も効きはしないし、こうやって“私”と入れ替わることも可能なので便利な姿だ。
ここを管理している者達に“L”の姿を知られる訳にはいかないので、“ワタリ”としてこの中に入ってきた訳だが“私”がその姿のままなので、彼は
[この部屋の中を監視しているから『ワタリ』の姿のままなんだろう?]
と暗に言っているのである。
「いいや、入れていない。
そんなのはあなたにも分かっている筈だ、……リン」
分かり切ったことをわざわざ聞く相手に声が尖るのを自覚していたが、それを隠す必要のある相手では無い。
どうせ何もかも知られている相手なのだ。
“L”らしくする必要も、意味もない。
だが彼は私のそれには答えず、
「ハンガーはその中だ」
ニコリ、と笑って私の後ろを指し示した。
…つまりは監視の目を入れてないなら脱げるだろう、だからそこのハンガーを使え、と言うことなのだ。