貴方のお側に(紅炎落ち)

□墓参り
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陛下に続き、お名前に因んで菊を多くお供えする。
白雄様は苛烈で雄々しいお方だったが、一方で気高く品のある美丈夫であられたからだ。

「......白雄皇子。御姫様の降嫁をいつまでもお気になさっていた貴方様ですが、かのお方は最近では紅炎様と仲がよろしく、いらぬ心配かと思います。」

特別に用意した線香をあげると、えもいわれぬ薫香が再び涙を誘う。
御姫様も、一国の皇女と考えるなら婚姻には遅い時期だ。紅玉様の姉宮では、10代半ばにして嫁がれた方もいらっしゃるのに。

「......血族結婚となれば、生まれくる御子はお二人の文武の才を受け継ぎ、素晴らしいお方となりましょう。五体の満足と寿命が気がかりではありますが......」

もし紅炎様と御姫様が婚儀を交わされるなら、私の立場はどうなるだろう。
とうに結婚など諦め、生涯煌に仕えると誓った。女としての悦びも、愛する人との家庭を思い描くのもやめた。
紅炎様のお側に居られるのなら、それでいいと思ったから。

「......私は、御子のお世話をさせていただくのが長年の夢でした。しかしこの命、もう長くはないようです。」

言い終えてみると、身体中に例えようもない虚しさが広がった。
何度も咳き込み胸を抑えながら、何とか言葉を紡ぐ。

「......近々、......はぁ、はぁ、そちらへ......参ります。その時には、また......あなた方の......お側に......」

白蓮様の元へお参りしようと思った瞬間、全身の力が抜けた。
発動中の魔法も全て消えたことを感じ取る。

「......紅炎......様......」

硬い石板に頭を打ちつけても、痛みすら分からない。
意識が何処かに行ってしまったようで、残されたのはゆらゆらと波間を漂うような、奇妙な感覚だけだった。
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