貴方のお側に(紅炎落ち)

□墓参り
3ページ/6ページ

「――――あの子、月瑛様の娘さまですって。気味の悪いほど似ていらっしゃるわね。」
「えぇ、本当。月瑛様の旦那様は見たことが無いけれど、どんなお気持ちでしょうね。」
「ここだけの話、月瑛様は皇帝陛下と契りを交わされたのですって。」
「まぁ、何と畏れ多い。でも、真実かもしれないわね。お二人は本当に親しげだもの。皇后様もさぞお恨みでしょう――――」

書庫へ続く廊下を歩いていると、物陰から侍女たちの噂話が聞こえた。
根も葉もない噂だけど、私は父の顔を知らない。

「......何でもとても聡明で、最近は紅炎様のお側にお仕えしているんですって。」
「母君が熱心にご養育なさったのね。ずっと家に閉じ込めていたのでしょう?あの子を見かけるようになったの、ここ数カ月だもの。」
「将来は紅炎様の夜伽役かしら。」
「紅炎様の位はそう高くないのだし、月瑛様のお血筋となれば、正室にもなれるでしょう。」
「そうね。月瑛様は、どうお考えなのかしら。」

......紅炎様の、正室。
彼の帝位継承権は第六位だから、顧問魔導師の娘なら正式に嫁ぐことも出来るのだろうか。
母様や陛下は、私に宮仕えをさせると仰っていた。
それは、あと何年かすれば紅炎様の夜伽をするということなの?

「......月瑛様のお身体を受け継げば、花街でもやっていけるでしょうね。そのくらい魅力的だもの。」
「不敬よ、明鈴(メイリン)。でもそうねぇ......立場だけなら、白雄様に嫁ぐことも出来るのじゃない?」
「その場合は側室でしょうけどね。ご兄妹のように過ごされているのでしょう?憎いわ、私の妹もあの子と同じくらいなのに。」
「身分が違いすぎるでしょう。......さぁ、早く掃除しないと。」

何処かへ行ってしまったようだ。
随分あからさまな陰口だが、今に始まったことではない。宮中で暮らすようになってからというもの、何かと疎まれている私。
母の身分、容姿、陛下のご寵愛......
話のネタは尽きなかった。

「......遅くなりました。紗弥に御座います。」
「入れ。」

書庫に着いた。中から聞こえるのは、最近お仕えするようになった方のお声。
さて、お勉強だ。

――――周囲に何と言われようと。私には、必要として下さる方々が居る。
陛下、紅炎様、白雄様、白蓮様、御姫様、若、そして母様。
彼らの存在を支えに、私は今日も、前を向いて生きていく。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ