れんと(殺生丸落ち)

□花見
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「見てみて葵さまー、あっちに桜が満開だよ!」
「おぉ、見事なものだな。どれ、連れて行ってやろうか?」
「うん!」

りんと呼ばれた幼い娘の手を取り、軽く地面を蹴る髪の長い少女。
まだあどけなさの残る愛らしい顔は、稀に見る器量だった。

「ほれ、着いたぞ。一番大きな樹まで、妾(わらわ)と競争じゃ。」
「あっ、待ってよ葵さま!」

独特の口調と華やかな着物。高貴な生まれらしく、走りながらも気品が感じられる。
舞い散る花びらを被りながら走る二人は、見る者の目に何とも愛くるしく映った。

「ふっ、妾の勝ちじゃな。」
「ずるいよー。葵さまは足速いのに、手加減してくれないんだもん!」
「ふふふ、そう怒るな。時に殺生丸、此処で花見でもどうじゃ?今が盛りだろう。」
「......好きにしろ。」
「えっ、お花見するの!?やったー!ありがとう、殺生丸さま!!」
「りんよ、頼んだのは妾ぞ。」

地面に積もった花びらをすくい、何度も投げ上げるりん。
すると二人の後ろに居る銀髪の美しい男が、葵に声を掛けた。

「......花見の馳走はあるのか。」
「ない。久し振りに町でも行くか。」
「私は行かん。」
「そう言うな。阿吽よ、りんと邪見を頼んだぞ。」

双頭の龍に少女と緑色の小妖怪を任せ、優しく男の手を引いた。
心底嫌そうな顔をするも、背負った薙刀の鈴が風に吹かれ鳴った瞬間、二人の身体が宙に浮く。

「......何だかんだで其方(そなた)は甘いのう。」
「......煩い。黙って掴まっていろ。」

落ちないよう、娘の身体をしっかりと抱きあげた右腕。葵も穏やかな笑みを浮かべると、白銀の毛皮にしがみついた。

半時も飛ぶと、下の方に小さな宿場町が見えてきた。
酒や甘味などはあるだろうか。

「町が見えたぞ。銭は妾が持っておるから案ずるな。」

その言葉を聞いて、殺生丸は静かに地面に降り立った。
町へ入るのを嫌がる彼を諭し、手ごろな店を探すのを手伝わせる。

「たまには酒でも飲もう。ほら、其方は品を探して。」
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