れんと(殺生丸落ち)

□妾は
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花見から数日。穏やかな卯月の昼下がり、一行は小川の縁(ふち)で休憩をとっていた。
りんが退屈そうにしていたので、水遊びでもしようと葵が提案したのだ。

「葵さま、このお魚早くて捕まえられないよー。」
「ふっ、まだまだだな。妾が手本を見せてやるから、よく見ておけよ。」

そう言って下駄と長い足袋を脱ぎ、袖を捲くった。殺生丸は悠然と木陰に佇み、目を閉じている。

「こりゃ、葵!またいらんことをしよって!!」
「其方はいちいち喧(やかま)しいのう。どうした。同じ河童として水場に帰りたいのか。」
「わしは河童じゃないわっ!!」

唾を飛ばしながらまくし立てる邪見を無視し、そっと足を浸けた。まだ水は冷たい。
小さな子鮎を目で追いながら、静かに進んだ。

――――バシャバシャバシャッ

素早く手を差し込み、獲物の腹を掴む。そのまま岸に放り投げた。

「すごい!葵さまは魚捕りも上手なんだね!!」
「このくらい造作もない。夏になって此奴らがもっと肥えたら、詳しく教えてやろう。」

その後も冷たい水に浸かり、ひたすら夕餉を捕り続けた。たまに深いところがあるから、りんには危ない。
今日のところは薪拾いを任せることにした。

「殺生丸。其方の爪で、腹を裂いてくれんか。」
「......」

りんが荷物運びに邪見と阿吽を連れて行ってしまったため、ここには殺生丸と葵しかいない。
爪なら殺生丸の方が鋭いし、何より傍観しているだけなので頼んだ。

「断る。」
「言うと思った。これを使え。」

岩に乗せておいた愛刀を、林の方へ投げた。
シャランと涼やかな音がして、薙刀が殺生丸の足元に落ちる。

「......よいのか。特別な品だろう。」
「魚には触れず、軽く薙いでくれ。風だけで斬れる。」

手に取ると、可憐な見た目に反してずっしりと重い刀。
だが不思議に均整がとれていて、扱いやすいのも事実だった。

シュッ――――

一陣の風が、静寂を切り裂いた。
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