嘘つきちょこれゐと(イルミ落ち)

□理不尽な婚約
1ページ/5ページ

「マリカ。俺たちから大事な話がある」

いつものように家族三人、穏やかに夕食をとっていた時だった。
突然父がフォークを置き、キャッキャウフフしていた母も静かになる。
なんだなんだ、この二人が真顔だなんて不気味じゃないか。
――――すっごく嫌な予感がする。

「実はね。急だけど、あなたの婚約が決まっちゃったの」
「......はっ!!?」
「この間シルバと飲んでたら、あそこの長男が適齢期だと言うんで、成り行きでちょっと、な」

ハハハッと破顔する父。
待て待て待て待て待て待て待て待て。何が「ちょっと」だ。今婚約って言わなかった!?しかもシルバさんの長男って、あのイルミ・ゾルディックよね!!?
ねえ、両親よ!!!!

「でもね、これには深いわけがあるのよ。ね、あなた」
「ああ。本家から、度々お前に縁談が来ているのは知っているだろう。あんまりしつこいから、ノリで『あいつには心に決めた男がいるんだ!』って言っちまったんだよ」
「......おい」
「そしたらさ、当然先方について聞かれる。取り敢えずその場は誤魔化したんだが、ピンチだろ。だから、この話をシルバにしてみたんだな」

ピンチなのはこっちだ。急展開過ぎてついていけない。
ワインを口から吹きそうになっていると、にこにこと上機嫌な母が続ける。

「わたしもお父さまも、あなたには幸せな結婚をしてほしいと思っているの。でも、本家が煩いじゃない。シルバのところも似たようなものらしくて。キキョウさんが勝手に縁談を進めたりして、みんな疲れてるって言うんだもの。だからわたしたち、いいこと考えちゃったのよ!」

「お母さまの『いいこと』は、大概いいことじゃないんだけどね」

私の言葉を無視した父が、自信満々に口を開いた。

「ひとまずイルミと偽装結婚しといて、その間にお互い相手を探すわけだ。そんで、ほとぼりが冷めた頃に別れる、と。どうだ?すごい名案だろう!!」

開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
信じられない。だいぶネジの外れた人たちだとは思っていたが、まさかここまでとは。

「何が名案なの!?そんな事したら、両家の名誉に傷がつくじゃない。先方のお気持ちも傷つくだろうし......」
「そこは心配するな。イルミはそんな奴じゃないからな。滅多に帰りもせんだろう」
「余計辛いよ!」
「まあまあ。仕方ないじゃない?大事な一人娘にそんなことさせるのは気が引けるけど、これも運命だと思って諦めてちょうだい。今更断れないわけだし」
「私の人生を返して......」
「俺たちは分家だからな。上の目を誤魔化すためには、もうこれしかないんだ。なに、少しの間だろう。辛抱しなさい」

ぽんぽんと私の肩を叩く父。
涙が止まらない。全然感情がこもってないよ。

「それに、結婚してる間にイルミちゃんのこと好きになったなら、そのまま夫婦を続ければいいんだし。なかなか無いわよ?こんな縁談」
「嬉しくないよぉ......」

ほんと最悪。
ゾル家というだけで気後れしてしまうのに、顔も知らない人と結婚だなんてありえないよ。
ああもう、私っていつも、貧乏くじばかり引かされてる。
何でこんなことになっちゃったの。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ