貴方のお側に(紅炎落ち)

□墓参り
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長老殿の葬儀を終え、無事帰還を果たしたことで私の任は解かれた。
しばらく見ていない間に随分やつれたご様子の紅炎様だったが、最近は徐々にあの“ギラギラ”を取り戻しておられる。
相変わらず神をも恐れぬ美しさだ。素晴らしい。

「おー、紗弥!そんなに花なんか持ってどこ行くんだ?運ぶの手伝ってやるよ。」

もう10年も、休日は欠かさず大帝陛下たちの墓参を行っている私。
今日は久々ということで、色とりどりの花を普段の3倍も用意してきた。
......結構重い。

「墓参りですよ、ジュダル殿。重力魔法で浮かせますので、お助けいただかなくて結構です。」

偶然出会わせた、神官としては同僚のジュダル殿に返事をする。
そうだ。始めから重力魔法を使っていればよかった。
ふわりと宙に浮かせると、両腕が嘘みたいに軽くなる。

「......へぇ。やっぱお前、おもしれぇわ。」
「どうなさいました。」
「いや、かなり強力な魔導師でも、一度にそんだけの魔法は使えねぇだろ。お前、今3つ発動してんじゃん。」

ジュダル殿は3つと言ったが、残念。5つだ。
1つ、現在花を浮かせている重力魔法
2つ、紅炎様を見守る遠隔透視魔法。
3つ、紅炎様に魔力を送る高度の8型魔法。
4つ、紅炎様の身の回りのお世話をする力魔法。
5つ、......宮殿を覆う3重の防御結界。

最後の魔法は、紅炎様には言っていない。
あれは寿命を削る。まぁ、私の命はもう長くないのだから、今更そんな心配をするのも変な話だが。

「全て紅炎様へのひたむきな愛情が成す業ですよ。何ら苦にはなりません。」
「歪んだ愛情だろ。」

すかさずツッコミを入れる彼を無視し、禁城の裏山を開いたところにある御陵を目指す。
......この場所も、覚えたての知識と技能をフルに活用して、大半は私が造り上げた。

「......陛下。このたび御姫様は、黄牙の村を従属させたのですよ。貴方様と同じ、世界を一つにすることを志して。」

石段を登り終え、一番大きな御陵の前に跪いた。
大量の花と菓子を惜しげもなく供え、近況を報告をする。

「......私はもうこんなに年を取ったのに、陛下は昔のままなのですね。齢を重ねるごとに、過去が思い出されて切なくなります。紅炎様がおられなかったら、とっくに生を諦めていたことでしょう。」

頬を伝う涙が、ぽたぽたと墓碑を濡らしていく。
誰も居ないのをいいことに、俯いて泣き続けた。もう二度と帰ってこない日々に、私は今も囚われたままだ。

「また来ます。」とだけ呟き、陛下の元を後にした。
――――次は白雄様だ。
大好きな人なのに、足を進めるのも気が重かった。
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