魔法長編/星
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「セブっ!」
背後から聞こえてきた声に、胸が高鳴った。立ち止まり後ろを振り向くと、綺麗な赤毛を揺らしながら走って来る姿が見えた。隣ではリュウヤが、キョロキョロと声の主を探していた。
「セブ!何だか久しぶりに感じるわ!」
ふわりと微笑まれると、たちまち気分が上昇するが、至って無表情を決め込む。
「…昨日の夜ぶりじゃないか」
「それでも同じ学校にいるのに、こんなに会えないなんて寂しいわ!!」
その言葉にとてつもなく嬉しくなるが、上手く言葉を綴る事が出来ない。そんな自分にヤキモキとしていると、リリーの視線がリュウヤに注がれていた。
「ねえ、サムライとニンジャの子供って本当!?」
その言葉は、誰も分かってくれなかったと落ち込んでいたリュウヤにとっては、とても嬉しいものであった。
「君、侍と忍者を知ってるのか!?」
「ええ!」
「やっべー超嬉しい!!」
その言葉通りにリュウヤは嬉しそうに微笑んだ。自分に向けられた笑顔ではないにも関わらず、思わずたじろいだ。
「それが、残念ながら冗談なんだ」
「そうなの……」
「あ、でもね、忍っていうのは、あながち間違いじゃないんだ」
「え?」
「おれ、忍者みたいな魔法使いになりたくてさ!」
「カッコイイわ!!」
「だろ!!セブルスー!この子超いい子!」
「ふんっ」
リリーがいい子だということは、遠の昔から知っている。和気あいあいとした雰囲気に、心が穏やかになるのを感じた。
「私、リリー・エバンズ。リリーって呼んで!」
「あ、おれは」
「リュウヤでしょ。さっき聞いて覚えたわ!」
「おれの自己紹介どうだった?」
「最高よ!」
「まじ!!セブルスからは不評だったんだよー『変な発言は慎め!』だってさ」
「当たり前だ。あんな冷たい視線を浴びてるのに、よくそんな飄々としていられるな」
「え?皆、ポカーンとはしてたけど、冷たい視線だったっけ?」
「…………鈍い」
「えええ?」
リリーも同じスリザリンだったら、こうして三人でいられたのだろうか。いや、分かっていた。リリーがスリザリンに入らない事を。リュウヤが非常に稀な例なだけだろう。だけど、リュウヤを見ていると、リリーもスリザリンに入れたのではないかと思ってしまうのだ。
「あ!!さっきのスリザリンの変な奴!」
突然、大声が廊下に響いた。この声は、ホグワーツに来るときのコンパートメントで聞いたことのある声だった。
「何?それっておれのこと?」
「当たり前じゃないか!」
くるくるとした黒髪の眼鏡男が、リュウヤの前にズカズカとやって来る。
「セブルス、おれってもしかして有名人?」
「……あれだけ授業中に騒げば有名にくらいなるんじゃないか?」
マイペースなリュウヤに呆れつつも、警戒体勢に入る。
「やあ、僕はジェームズ・ポッター。君とならスリザリンでも友達になってもいい」
「……あー…うん。よろしく」
今まで見たことの無いような微妙な表情をしたリュウヤに驚いた。誰に対してもニコニコと笑顔を絶やさなかったのに、ポッターにはぎこちない笑みをみせたのだから。
「オレはシリウス・ブラック。お前の自己紹介面白かったぞ」
「ありがとう!シリウスって呼んでもいいか?」
「あまり苗字で呼ばれるのは好きじゃねぇから助かる」
「僕は、リーマス・ルーピン。リーマスって呼んでね。よろしく」
「よろしく!!」
ジェームズの時とは違い、いつもの笑みに変わったリュウヤに、セブルスは面白くなかった。グリフィンドールで、態度が悪い奴らとまで仲良くする必要はない。顔をしかめているセブルスに、シリウスも同じく顔をしかめた。
「何だよスネイプ」
「何がだ。僕は何も言ってないだろう。それとも幻聴でも聞こえたのか?」
「テメッ…!!」
馬鹿にした様に言葉を放つセブルスに、リュウヤは驚いた。そして、空気が一気に悪くなった事に気が付いたのだ。
「セブルス?どうした?」
セブルスのローブを軽く掴んで、心配そうに顔を覗き込む。そんなリュウヤの顔を、セブルスは手で押した。
「ぎゃっ」
今までは、こんな事をしても嫌そうな表情を浮かべるだけだった。今は違う。いつも違うセブルスの態度にリュウヤは大人しく顔を離して首を傾げた。周りの表情を見ると、ジェームズとシリウスが悪意丸出しの表情でセブルスを見ていた。その様子をリリーとリーマスは心配そうに見ている。
「…あ!寮に忘れ物した!セブルス、付いて来て!一人は嫌!しかも合言葉も忘れた!」
「…胸を張って言うな」
「セブルスがいつも一緒にいてくれるからいっかなって」
「……行くぞ」
セブルスは、長いローブを翻[ひるがえ]して歩きはじめた。リュウヤは慌ててその隣まで駆け寄ると、後ろを振り返って大きく手を振った。
「ばいばーい!グリフィンドールのみなさーん」
ニッと笑ったリュウヤにリリーとリーマスはヒラヒラと手を振り、ジェームズとシリウスは悔しそうな顔をした。
「………で、嘘なんだろう」
「へ!?」
暫く歩いたところで、セブルスは立ち止まった。驚いた表情をしたリュウヤに、ふんっと鼻を鳴らした。
「僕が見破れないとでも思ったか」
「いや!そうじゃねーんだけど……」
「あのままだと、下らない言い合いが続くのは目に見えて分かっていたからな。珍しく空気を読んだリュウヤに便乗した」
「……セブルスさーん。何か胸がチクチクするよ」
セブルスは、心の中で「助かった」と呟いた。リリーの前では、格好悪い所を見せたくなかったから。
「次は自由時間だから図書館にでも行くか」
「行く!……英語、勉強しなきゃ……」
急にショボンとしたリュウヤの頭に手を伸ばす。ジジにしたように慣れない手つきで頭を撫でた。リュウヤは一瞬、驚いた表情をしたが、すぐにふにゃりと気の抜ける笑みを零した。
「……教えてやるから早く行くぞ」
「はーい!スネイプ先生!」
「やめろ恥ずかしい」
ほんの二日間で、リュウヤとの距離は急激に縮まっていた。それもこれも、この不思議なオーラを持つリュウヤのせいなのだろうと一人で納得し、ローブを翻した。