魔法長編/星

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梟小屋に向かっていると、悪戯仕掛人が歩いてくるのが見えた。知らんぷりをしようと考えた途端、ジェームズの声が聞こえた。

「やあやあ!これはこれは……スリザリンのリュウヤじゃないか!」

「はい、こんにちは」

いつもと変わらず、どこか余所余所しく、毅然とした態度であるリュウヤに、ジェームズはピクリと眉を動かした。しかし、今よりも少しだけ顎を高く上げ、自分がいかにも偉いか示す様な態度を取った。

「どこに向かってるんだい?」

「梟小屋だよ。家族に手紙を送ろうと思って」

それを聞いたジェームズは、ニヤリと笑った。

「この間のテスト結果の報告かい?」

「うん、まあそんなとこ」

リュウヤは、チラリとリーマスを見たが、リーマスは事の成り行きがどうなるのかを不安げに見ているだけだった。それにしても、ジェームズはどうしてこんなにも偉そうな態度を取っているんだ?

「泣き言でも書いたのかい?」

「え?何で?」

キョトンと首を傾げたリュウヤにジェームズはニヤニヤと笑った。

「まあ、僕と比べたら皆、嘆かざるを得ないだろうね。なんせ僕は優秀だからさ!」

まだまだジェームズの演説が続く予感がしたため、リュウヤは黙ってジェームズを見詰めた。それをジェームズは、自分を羨んでいるのだろうと解釈し、また得意げに笑った。

「僕は、テストが近い事を気にしていなかった!いつもの様に楽しい楽しい悪戯を考えていた!そして気が付いたらテスト開始前日じゃないか!それでも僕は慌てなかった。何故だか分かるかい?なんせ僕は分かっていたからさ!自分には能力、才能、何でも備わっていると!」
「そうさ!僕は勉強せずにテストに向かった。問題用紙を裏返し、目を通した時に僕はガッカリしたよ。何故って?問題があまりにも簡単過ぎたからさ!!結果が返ってきて、僕は再確認した。僕には才能があると!!―――三位だったのさ!!勉強せずとも三位を取ったのさ!!是非とも僕よりも優秀だった生徒に会って話がしたいね。次は僕が一位になるべくしてなると言わなければならないからさ!!」

ジェームズの後ろで、ピーターが尊敬する様な眼差しをジェームズに向けていた。シリウスは、何度も聞かされた演説に少しだけうんざりとした顔をしていた。リーマスは、まだ不安げな目を向けていた。

「さあ、リュウヤ。驚いただろう?君は何位だい?」

今まで静かに聞いていたリュウヤは、朗らかな表情を浮かべた。

「ああ、凄いと思うよジェームズ。おれ?おれは二位だったんだ」

その瞬間、ジェームズの得意げな表情が微かに歪んだ。

「あと一位の人も知ってるよ、おれ。きっと今頃、寮のおれ達の部屋にいると思うよ」

二人とも、テスト前に猛勉強をしたわけではない。日々の勉強を怠らなかったため、さっと教科書に目を通すだけだった。しかし、ジェームズを凄いと言った言葉は皮肉でもなんでもない。全く勉強せずに、満点近く取る事は確かに凄いと思ったのだから。

「……もしかしてスネイプが一位……とか言わないよな?」

「え?セブルスが一位だよ?」

ふ、とジェームズから表情が消えた。そんな事を気にするリュウヤではない。何食わぬ顔でジェームズを見詰め返すと、また口を開いた。

「でもねジェームズ。おれ、毎日地道ーに勉強してたんだよ。だっておれ、日本人だよ?授業の復習の前に、英単語の勉強をしなきゃいけないんだ。んでもって、自力で読めなかった文をこういう表現があるんだって覚えて、やっと呪文を覚えるんだ。どんだけ時間が掛かると思う?おれは努力しなきゃいけないんだ。だから努力しなくても勉強出来る奴って本当に凄いと思う。」

少しずつ、ジェームズの表情が優越感に浸っていく。

「まあ、憧れたり羨ましくは思わないんだけどね」

そう呟いたリュウヤに、ジェームズは首を傾げた。

「何故?」

「え?だって、努力して手に入ったモノって、すっごくすっごく大切に思えるじゃん」

ジェームズは理解出来ないという表情をし、シリウスは目を見開いた。リーマスはリュウヤらしいと朗らかに笑い、ピーターはキョトンとした。そして、ジェームズは小さく鼻で笑い、「まあいい」と呟いた。

「それはそうと、スネイプと一緒にいるのはやめた方がいい」

今度は、リュウヤの眉がピクリと動いた。貼り付けた様な不自然な表情をしたリュウヤに気付いたのは、シリウスとリーマスだけ。

「……どうして?」

「どうしてって?ヤツは闇の魔術にどっぷりと浸かっているじゃないか!」

闇の魔術に詳しい事で、セブルスが異端児と言われている事をリュウヤも知っている。それだけで異端児扱いされている理由もリュウヤは分かっている。魔法界に疎かったリュウヤも、図書館の本を読んで、ある程度の情勢は頭に入っている。それでもリュウヤはセブルスが異端児扱いされているのは気に食わなかった。

「ジェームズの家には包丁は何丁ある?」

「は?」

意図せぬ問いに、ジェームズはマヌケな声をあげた。しかし、リュウヤはそんな事はどうでも良かった。ギラギラとした炎が目の奥でチラついていた。

「おれん家には五丁ある。だけど、それで人を殺す?殺さねえだろ。そんなに沢山の包丁があるのに人は殺さない。じゃあ警察はどうだ?あの人達は、沢山の犯罪を犯す方法を知っている。拳銃だって持ってる。彼らは人を殺せる道具まで持ってる。だけど殺さない。おれが何を言いたいか分かるか?
闇の魔術は、確かに恐ろしいよ。だけどそれを多く知っているという事は、もしも悪い魔法使いに出会ったとしても、そいつの攻撃レパートリーを多く知っている事になる。自分の身を守る術が分かるって事だよな。もしも一年生が、悪い魔法使いに出会ったとしたら、生き残るのは誰だと思う?セブルスたった一人じゃねぇの?彼を異端児扱いしている奴らは一人残らず酷い目に合うよ。知識がある事は何一つ悪い事じゃない。
それをどうして分からない?セブルスを異端児扱いして、煙たがる理由が、おれには全く理解出来ない。それだけで、たった闇の魔術に詳しいってだけでセブルスを評価すんじゃねぇよ。セブルスのいいとこを一つも知らない癖に、悪口言うなよ。いいとこを知ろうともしない癖に悪口言うんじゃねぇよ。
ジェームズはさ、シリウスとかリーマスとかペティグリューとかの事をさほど知らないヤツに、そいつらの悪口言われたらどう思う?嫌じゃない?ムカつかない?それと同じで、おれも嫌だって思うの気が付かない?」

これだけの長い言葉をスラスラと、そしてずっと溜まっていた鬱憤を晴らすかの如く言い切ったリュウヤに、四人とも言葉を発する事が出来なかった。リュウヤの言ったことは確かに筋が通っている様に感じたし、何一つとして間違った事は言っていない。ただ、ジェームズもシリウスもその意見が気に入らなかった。

「じゃあ、おれ行くから。」

言いたい事を言い切ったリュウヤはパッと表情を和らげ、ヒラヒラと手を振った。

「グリフィンドールの皆さーん、さっようっならー!!」

『はっひふっへほー』と言いながらスキップをする。右手には両親に送る手紙が握られていたが、それは見るも無残なくしゃくしゃな姿となっていた。

大丈夫。セブルス、おれはセブルスの良いとこを沢山、沢山知ってるから。周りがセブルスの事を理解出来なくっても、おれはどんなセブルスでも理解したいと思ってるよ。これだけは思うんだ。きっと、これからのホグワーツ生活で、おれがセブルス以上に仲良くなる人は一人としていないんだってね。

「あーあ!何か腹立つなあ」

感情の切り替えが上手くいかないのは初めてだった。



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