魔法長編/星

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「魔法の復習、出来ないじゃんか!!!」

魔法不適正使用取締局が制定している未成年の魔法使いは、自衛以外の魔法の使用を禁じられていることから、夏休みの間は魔法を使えない。ということで、杖の振り方の復習が出来ないのだ。
せっかく新しい魔法も勉強しようと思っていたリュウヤの悲痛な叫びが響いたその日に、リュウヤの両親は取っておきのプレゼントを二人に渡した。リュウヤの杖のレプリカとセブルスの杖のレプリカだ。握り心地は若干違うが、重さも硬さも色も何もかも同じだった。これなら木の棒を振り回して練習するよりもずっと効率の良い復習が出来るだろう。まあ、本物の杖と間違うと大変なので、マークが付いているのが。

それからリュウヤとセブルスは漁るように本を読み、次から次へと魔法の練習をした。リュウヤの父はその様子をじっと見て、発音だとかアクセントだとか、杖の振り方だとかをチェックしていた。何かおかしなところがあれば、変な癖が付く前に直さなければいけないからだ。

知識欲の塊である二人は夏休みの間にたくさんの魔法を学んだ。一年生の教科書に載っているのに授業で扱わなかったモノから、二年生の教科書に載っているモノ、またリュウヤの両親から貰った11、12歳の魔法使い向けの本に載っていたモノまで、幅広く手を出した。闇雲に手を出したって習得しなくちゃ意味がない。だからこそ、しっかりと一つ一つ、理論から理解していった。あとはホグワーツで、実践してみるだけだ。

リュウヤ達の年齢は、マグルの世界では中学校に入学する歳だ。ホグワーツでは、マグルの子供が習う科目は扱わない。当たり前といえば当たり前なのだが、リュウヤの両親はこのことを良く思っていなかった。マグルの世界でも生きていける様に成長しなくてはいけないのだ。魔法を使えたって、魔法界の常識があったって、地球上の大半を占めるマグル界で生活出来なければ意味がないのだ。

「・・・・ということで、リュウヤ、セブルス。二人とも、この教科書に書いてあること全てを一年間で習得してね」

ある日の朝、朝食を食べ終わったリュウヤとセブルスが居間に呼び出された。何だろうと二人が行ってみると、テーブルの上に置いてある大量の教科書と問題集を突き出されたのだ。

「これはあなた達と同い年のマグルの子供達が、今年一年間で習得するものよ。あなた達は魔法使いだけど、これくらいは理解出来なきゃいけないと思うわ。ホグワーツでは魔法のことは事細かに学ぶ。だけど、世界のことは学ばないのよ。どうやって草花が呼吸しているか、生物とは何か。私たちを構築しているモノは何か、私たちが吸っている空気は何で出来ているのか。マグルの子供達は知ってるわ。なのに魔法族は知らないの。おかしいでしょ?私たちの暮らしている世界の事を知らないなんて。だから、自分達で学んで。知識はあなた達を強くする」

「二人共、魔法薬学が得意だったよな?化学を修得すれば、きっと新しい魔法薬も作れるはずだ。俺は、魔法薬はまだまだ改善する点がたくさんあると思うよ。あんなにヘドロみたいな薬、誰も飲みたくないからなあ。だから、きちんと学びなさい。これはお前達のタメになることだと思ってる。大人の求めるものを子供であるお前たちに押し付けるのは少し違うと思う。いいか、きっかけは俺達が作ったぞ。これをどう生かすかは、リュウヤとセブルス、君達次第だ」

そう、大人が求めるモノを押し付けても結局はモノにならないのだ。子供たちが大人の求めるモノを受け止め、自らが納得して行動しなければ、意味が、ない。リュウヤの両親はそれを良く理解していた。しかし、やはり大人は求めてしまうのだ。自分達が出来なくて時が経つにつれ後悔していくことを。

始めは気乗りしなかったセブルスも、知識が増えることに対しての抵抗があるわけではない。むしろ知識が増えることは大いに歓迎することだ。それはとても、楽しいことだから。知らなかったことを知っていく。今までの小さな疑問は、知識が増えるたびに解消され、そして新たに疑問が生まれる。しかし、マグルに関係することなのだ。魔法が使えない、マグルの。だが、そのマグルが当たり前のように知っている知識を自分が知らないということは堪らなく悔しいことだ。それならマグルの知識を修得してやるとセブルスは意気込んだ。そして、それがもしもリュウヤの両親が言う通り、魔法にも使えることがあるなら利用しよう。そうして、僕は魔法界で成し得なかったことが出来るようになるのだ。

目の奥に炎を揺らめかせるリュウヤとセブルスに、リュウヤの両親は小さく笑った。そして、思い切り抱きしめた。この溢れ出る愛しさが伝わるように、優しく、そして力強く。


今日も、外では蝉が鳴いていた。




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