☆月少野崎くん☆SS

□可愛い ★鹿島くんside
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「お姫様方、一緒にお茶でもいかが?」
「もちろん!」
「私もー!」
「勿論、お嬢さんも一緒にどうーーぎゃ」
「何がお茶だぁ?部活だろうが!早く来い」

毎日のように繰り広げられる光景ーーー。
今日も女の子をナンパして、途中で堀ちゃん先輩に連れ去られる。
あれ?わたしお姫様みたいじゃない?
王子様に連れ去られるお姫様!…って王子様は連れ去ったりしないし、勿論殴ったり蹴ったり投げ飛ばしたりしない。
分かってるんだ。分かってるんだよ、堀ちゃん先輩。
貴方がわたしの事をただの部活の後輩だと、ただのサボり常習犯の部員だと、ただ顔が好きなだけだと、ただ王子様役にピッタリな人材なだけだと思っていること。
分かってる。理解してるんだ。
でも、寂しいんだよね。ただの部活の後輩って事実が。
それ以上の存在にーーーって、これはワガママすぎるか。
うん、全部分かってる。


「堀ちゃん先輩!今日も迎えに来てくれたんですか?嬉しいなー!」
「来なかったらお前サボるだろうが」


分かってるから、バカみたいに毎回同じ返事をする。
分かってるけど、迎えに来てくれるのが嬉しくて、バカみたいに毎回舞い上がる。
堀ちゃん先輩に憧れて入った高校。
近づいて分かった優しさ。
近づいて思い知った、自分の気質。
どんなに頑張っても、縮まらない距離。


「…どうした?」
「へ?」
「珍しく真剣な顔してっぞ。悩み事でもあんのか?」
「…あは…や、やだなぁ、堀ちゃん先輩!わたしに悩み事なんてあるわけないじゃないですか!…強いて言うなら、モテすぎちゃってどうしよう、とか?」
「はいはい、聞いた俺が悪かったよ。お前、本当王子様だよ。…だから。稽古ちゃんとしろっ!!」


怒られちゃった。
でも、堀ちゃん先輩があんなに必死で構ってくれてるの、わたしだけだもんね。
なーんて無理矢理ポジティブになってみたり。
あー、一回でいいから堀ちゃん先輩と相手役してみたいなー。
あー、この身長と顔がにくい!


「堀ちゃん先輩?」
「…なんだ?」
「わたし、女の子に産まれたかったな」
「は?何言ってんだお前。ちゃんと女だろうが。」
「違いますよー、生物学上の話じゃなくて!女の子らしい女の子だったら今頃、どうしてるのかなーって」
「はぁ?何、急に女の子に憧れてんだよ。…俺からしたらお前は充分女だよ」


ドキリとした。
それって異性として見てくれてるってこと?
この王子様気質のわたしを?
ま、まさか。
堀ちゃん先輩がわたしのこと女の子扱いなんてしたことないし、可愛いなんて言ってもらったことはない。
いつも、お前は王子様だよ、とかお前本当にイケメンだよな、とか。
それでも、ずっと聞きたいことがあって。
今ならーー引きずられて後ろ姿しか見られない今なら、冗談っぽく聞ける気がした。


「堀ちゃん先輩、わたし可愛い?」
「…どっちの意味でだ?」
「……。」
「おい。聞いといて黙るな。どっちの意味でだ?…後輩としてか?…お、女としてか?」


へ?
おんなとして?
堀ちゃん先輩からそんな言葉出てくるなんて思ってなくてわたしは焦った。
しかもちょっと先輩照れてる。


「ど、どっちもですよぉ。ど、どどどうなんですか?」
「…可愛いからこうやってかまってやってんじゃねぇか。」


その答えはどっちに対して?
ねぇ、堀ちゃん先輩。
なんで耳真っ赤なの?
なんでそんなに照れ臭そうに言ったの?
ねぇ、なんで?
なんでこんなに嬉しいんだろ。
なんでこんなに満たされた気持ちなんだろ。
勘違い、なんかじゃないよね?
わたしも顔、赤いんだろうか?
ねぇ、堀ちゃん先輩。
可愛いなんて産まれて初めて言われたよ。
こんなに嬉しいものなんだね。

「えへへ…嬉しいなぁ。」


これから2人の関係は発展するのか、しないのか。
知るものはまだ、誰もいない。


fin.

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