☆月少野崎くん☆SS

□可愛い ★堀先輩side
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いつものように、放課後、鹿島を捕まえて引きずりながら歩く。
全くこいつは本当によくサボる。
俺がいなくちゃ部活に来ないし、まともな練習にもならない。
鹿島が女子をナンパするなんていつものこと。
いつも通りのように見えるが、今日はなんだか鹿島がおかしい。
急に深刻な顔になって、考え込んでいるーーー俺に引きずられながら。
どうした?って聞いたって軽口が返ってくるだけ。
若干、しどろもどろだが。
俺は気付かないフリをする。
そう。本当は気づいてる。こいつの微々たる変化も見逃さない。
特別な感情は、ない、と思ってた。
不意にこの疑問をぶつけられるまでは。


「堀ちゃん先輩、わたし可愛い?」


可愛い?鹿島が、可愛い?
一番可愛いという単語からかけ離れているであろう、この女。
男の誰よりかっこよく、女子だけでなく男子からみても、どこからどう見ても麗しの王子様。
本人も王子と呼ばれて嬉しそうだし、と思った瞬間、頭を過る少し前の会話。

ー先輩はロングとショート、どっちのスカートが好みですか?ー

冗談っぽく聞いているが、こいつはこいつで気にしてるのかもしれないと、あの時ふと思った。
思い出したら真面目に答えてやらなかったことを後悔した。
だから、今回は真面目に答えてやろうと思った。


「…どっちの意味でだ?」
「……。」
「おい。聞いといて黙るな。どっちの意味でだ?…後輩としてか?…お、女としてか?」


真面目に答えるべきではなかったのだろうか。鹿島は黙ってしまった。
チラッと引きずっている後ろを振り返り、真っ赤な耳を目撃する。
ドキリとした。

なんでだ?
なんで照れてやがるーーー。

「ど、どっちもですよぉ。ど、どどどうなんですか?」

どもる鹿島。焦る俺。
そのとき気付いたんだ。
鹿島の異様なまでのかまって攻撃のその意味と、何故こんな鹿島を毎日飽きもせず迎えに来ては嫌じゃなかった俺の本当の気持ちに。
俺は鹿島の顔が好きだった。
鹿島のオーラが好きだった。
鹿島の芝居が好きだった。
鹿島の存在自体が好きだった。
本当は、全てが愛おしくてたまらなかったのだと、今更気づいた。
女としても、後輩としても、本当にこいつはーーー。

「…可愛いからこうやってかまってやってんじゃねぇか。」

ぶっきらぼうに放った言葉の真意は伝わってしまっただろうか。
これから俺たちの関係は変わっていくのだろうか。
振り向きたいけど振り向けない。
視線を感じて、さらに恥ずかしさが増していく。
あぁ、それでも俺は。
絶対ぇ、もう離さねえからな。

王子様にとっての救世主でありたい。そう思った。



fin.

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