夢想曲1
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偽者の黒子くんにラリアットを食らわせてから消えたのを見て状況を飲み込めなかった男の子が落ち着いてきた。
まだ私に対して少し怯えている様子が窺えるが一先ず座って事情説明をした。
「……そ、れじゃあさっきのは…」
「うん。本物の黒子くんは日向さんと津川と一緒にいるからさっきのは偽者なんだよ」
「特に変なことをされたり入れ知恵は…」
「な、なかった…」
「ま、本物の仲間だと思ってたのが偽者で…しかも消えたとなったら誰でも混乱すんだろ」
宮地さんの言うとおり、私が最初に目が覚めた部屋で一緒にいた津川が偽者だったら混乱するだろう。
それだけでなく、もしかしたら今のところ分かっているメンバーの中にも偽者が居るかもしれない。
そう考え出したら仲間を疑いだして亀裂が入ってしまう。
そして誰も信じれなくなって自分は本物だと分かっているから単独行動して危険度が増すだろう。
そんな展開にはなりたくないし何よりあの人たちを疑うなんてことしたくない。
今分かっている限りの集まっている仲間なんだ。一人ではなにもできないし何もわからない。
信じることは此処から出るために重要で一番気をつけなければいけないことだと確認した。
「…それで、キミはここで目が覚めたの?」
「うん。何処かわかんなくて混乱してたところにさっきの、偽者の黒子が来て…」
「そうか。…なら、この部屋はまだ探索していないということだな?」
「あ、うん。」
「んじゃー手分けして探索すっか。何か些細なことでも気付いたらすぐに言えよ」
「「「はい」」」
宮地さんがそう指示したのに従ってそれぞれこの部屋の探索を始める。
…改めてこの部屋を見渡してみるとドアの色から考えた女の子の部屋、というより…
「子ども部屋みたい、ですね」
「にしてはぬいぐるみやおもちゃが一つもないのだよ…」
「もうそんな年じゃない、とか?」
「それだったら模様替えとかしてるはず……遊ぶものは何一つないのに子ども部屋に感じるって奇妙だね」
私の言葉にみんなが黙った。
タンスの取っ手のようなところはデフォルメの飛行機や雲。壁紙は可愛らしい鳥が飛んだ空。
この部屋は一見すると空をモチーフにされた部屋のようで、だけどどこか子ども部屋を連想させる。
そして私は三白眼の男の子、もとい降旗くんの隣でベッド脇にあるそれほど高くないタンスを開いた。
「…あ!!」
「ひぃ!?な、なに!?」
「驚かせてごめんね。…緑間くんちょっと来て!」
「なんだ?」
私が開けたタンスは高さがそれほどないはずなのに暗く、底がなかった。
黒く塗りつぶされているのかと思ったが微かに聞こえる音に耳を済ませるとヒュウ…と底がないことを確定させた。
緑間くんを呼んだのには理由があった。
おは朝信者である彼の今日のラッキーアイテムは懐中電灯。つまりこれでタンスの中を照らせばいい。
深さと何があるのかが見えるだろうと言うと降旗くんが誰が見るの?と言ったので見つけた私が見ると言った。
「んー…」
「何か見えたか?」
「…光がまだ奥に入っていくので深さは分かりません。けど、黄色くて小さいのが見えます」
「はぁ?その黄色いのは吊るされてるってことか?」
「、届かない距離ではありませんね。緑間くんちょっと懐中電灯貸して」
「……すぐに返すのだよ」
ラッキーアイテムは肌身離さず持つのがモットーのようで少し不機嫌そうに言われた。
けど貸してくれるのは黄色いのが何か気になるからかデレからか。私的には後者だと嬉しいな。デレ万歳。
そんな緑間くんに頷いて懐中電灯を改めてタンスの中に照らして黄色いものを取る為に少し身を乗り出す。
そもそもタンスがこんな底なしとかこの洋館どうなってんだよ構造図とかあればいいのになぁ。
黄色いものを掴んだ手応えがあり、よし。と思いながらタンスから手を出そうと少し動いた直後だった。
「……ッッ!!?」
「…雨倉?」
「おいどうした?」
先程まで黄色いものしか見えなくて手首に感じる痛みの原因は何も見えなかったはず。
なに?じゃあ黄色いものを手に入れたらおこる仕掛けがあったとか?
いや、でも、これはおかしい。
だって底は見えなくて暗闇しか広がってなくて、こんな、何かが這い上がってこれるものじゃない。
けど確かに私は今、そのひやりと冷たい何かに手首を掴まれていた。