夢想曲1
□11
1ページ/1ページ
緑間くんのラッキーアイテムである懐中電灯を咄嗟に後ろに投げた。
そして懐中電灯を持っていたほうの手で隣にあるベッドに手をついて引きずり込まれないようにする。
「う…っい、た…っ!!」
「「雨倉!?」」
「何かいんのか!?」
「…っ黄色いものを掴んで、手を出そうとしたら掴まれ…っ!」
ひやりと冷たい手が余計に恐怖心を煽る。
冷たい手に生気はまったく感じられず、何かヌメリとした気持ち悪い感触さえする。
痛い、冷たい、怖い、痛い、怖い、冷たい、いやだ、痛い、痛い、怖い、怖い怖い怖い怖い!!!
今までも感じていた恐怖心が更に募っていく。
宮地さんも駆け寄ってきて掴まれている手を離そうとしたが、所詮は小さなタンス。
宮地さんのようなしっかりと筋肉のついた腕どころか手も入る隙間なんてない。
どうすればいいか分からず焦り戸惑い恐怖しか感じられない。
しかしこのままでもいいわけではない。
選択肢は二つ。私がこのまま引きずり込まれるか、タンスを蹴るか。そんなの蹴りこむしかないでしょ!!
すぅっと息を吸ってから座り込む形になっていた右足で思いっきりタンスを蹴る。
バンッ!!と大きな音が鳴ってそれに驚いたのかソレの私の手首を掴む力が緩くなった。まだ離さないのか。
「っみんな下がって!!!早く!!」
「!?」
私の周りにいた三人にそう言うとビックリしながらも下がってくれたのを確認する。
そして、私の手首を掴む力が緩くなったソレを今度は私が掴んで精一杯の力で背負い投げのように引っ張り出す。
思ったより簡単に出てきたソレは片腕しかなく顔半分はどろどろに溶けていてグロかった。
思わず全員で息を呑んだが私は起き上がろうとするソレの足を払ってスライディング・エルボーを食らわす。
「なっにを…すんだこのど腐れ死にぞこないがァァァアア!!!!」
「オ゛ォオ゛オ゛っ!!」
「「「うおおおぉぉぉい!!?」」」
野太い悲鳴をあげたかと思えばソレは煙になって消えた。
あーもーほんと最悪。掴まれた手首は痣になるし手形で気持ち悪いしヌメリとした感触はアレに着いてた血だし。
それに、SAN値がすごく削られた。手を持っていかれるんじゃないかというくらいに怖かった。
痛いし怖いしで最悪だ。なにこの部屋子どもっぽさ微塵もないじゃん怖いわなにあのタンスの深さ。
「っ大丈夫か雨倉!?」
「痣になっているのだよ…そんなに強く握られたのか」
「お、オレがあの時手入れてたら…っ」
「ストップ降旗くん。そういう後悔してたらキリがない。それに私だったから引っ張り上げて消せたし…
もしも3人の誰かがこんな目にあってたら選択肢は引きずり込まれるしかなかったと思う」
痛む手首を擦りながら手に握ったままの黄色く小さなモノを床に置く。
すると、降旗くんは目を見開いたかと思うと私の頭をべしっと叩いた。
…ビビリじゃなかったっけ?え、てか怒ってる…?ポカンとしながら降旗くんの怒った顔を見た。
「…んで……」
「へ、」
「なんでそんなこと言うんだよ!オレら3人が引っ張られてたら引きずり込まれるしかない?雨倉だから消せた?
確かに消したのは雨倉だよっでもオレらが何もできないでただ見ることしかできなくてどんな気持ちになってたか分かる!?
最悪の事態を考えるに決まってんだろ!?男3人がいるのに女子1人も助けれずに、
挙句、誰にも頼らず一人で解決して!!なんで1人でやるんだよ!案があるなら言ってよ!怪我したら意味ないじゃんか!!!
なんで、なんで頼らずに……っ雨倉1人しかいないわけじゃないのに、何で自分でやるんだよ……っ」
「ふ、ふりはたく…」
「無理しないでよ……頼むから…」
降旗くんが怒ったことに緑間くんも宮地さんも勿論私だって驚いた。
怒っていた降旗くんは拳をぎゅっと握り締めて肩を震わせていて、途中から涙目になっていた。
本気で心配させてしまった。いや、心配してくれたんだ。
そして同時に、降旗くんは真っ直ぐなんだな、と感じた。会ったばかりの人を信用して心配して怒ってくれて。
今までだんまりだった宮地さんは私の頭を小突いて緑間くんも深いため息をついてメガネを掛け直した。
「オレらだってバスケの練習とかで日々鍛えてんだよ。力の差分かってんのか」
「まったく…どうしてそんな無理をするのかが分からないのだよ」
「…ご、ごめんなさい……」
「あ…オレこそ、ちょっと言いすぎた…ごめん。言いたいこともまとまってなくてぐちゃぐちゃだし…」
けど心配したんだからな、と言う降旗くんに3人が私と同じ目に遭っていたら、と想像して反省する。
それでも私は会ってからも無意識に無理しすぎだと言って説教が始まった。
本当なら何故ここで説教が…と思うけど本当に私が悪かったので大人しく説教をきく。正座は慣れてるから平気だけども。