夢想曲1
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さてさて。伊月さんのまさかの残念性に軽くショックを受けたわけですが…
私が話す番になって、とりあえず先に黒子くんに謝っておこうと思います。
「先に言っとく。黒子くんごめんねっ☆」
「…?どうして謝るんですか?怪我のことなら後でちゃんと説教しますけど…」
「え?いや、怪我の方じゃなくて!!ってか怖い!?説教は話聞いてから決めて!?」
「雨倉。何故最初にテツヤに謝るんだ?」
「あ、うん。信じてないわけじゃないんだけどね?仕方なかったっていうか…」
「一々気にすんなよ……なんて言うわけねーだろバァカ早くしろ」
ちょ、花宮さんなにその変化球。
すっごい優しい声になったと思ったらいつも通りの声に変わって舌打ち付きとは……恐ろしや。
けど花宮さんのほかに宮地さんや主将にも急かされたので私達の散策結果を話す。
「まず私達は会談の所まで2チームと一緒に行って、別れてから暫く廊下を歩きました。
そしたらピンク色のドアを見つけて、そこを開けると部屋に座り込んでる降旗くんと……偽者の黒子くんがいました」
「「!!?はぁ!?」」
「テツの!?こんな影薄くても化けられんのかよ!!」
「抓りますよ青峰君」
「ふぅん…ウチら以外にも化けれるってわけね〜」
「はい…化け物は誰にでも化けれるようなので、気をつけないと…」
私がそう言うと全員が気を引き締めた表情になった。
正邦にしか化けられなかったらまだ化けられたとしても楽だっただろうけど、誰にでも化けれるとなると難しい。
特に私も各校の選手一人一人覚えているわけでもないし知らない人だったら尚更危険だ。
騙されないようにしなければいけない、と意を固めた。
しかし、偽者に会ったからとはいってもどうして黒子に謝るのか、と津川が尋ねてきた。
私が謝ったのを理解した人たちは何をしたんだ?と尋ねてくるので両方ひっくるめて答える。
「降旗くんが隣にいたし危険性はあったかもしれないけど、まぁ…ラリアットを。」
「あの音は生々しかったのだよ…」
「本気でやってたよな」
「やらなきゃやられてました。降旗くんが。」
「えっあ、そう…だね」
あれが本物だったら土下座モンだわー土下座で許してもらえるかわかんないけどね!!
そんなことを考えていると黒子くんは少なからず青ざめた。そして小さな声でボクは本物です…と言った。そうだね…
うん……ごめんね…。偽者とはいえ自分がラリアットを食らってるのを想像したらいたたまれないよね。
「だから、最初の謝罪に繋がるってわけなの」
「…いえ、降旗君を助けてもらいましたし、気にしていません」
「っ…優しい……こんな人部活にいてほしかったっっ!」
わっと顔を覆ってわざとらしく演技をするとオレは別にいいや、とかオレ優しいのに〜とか、無理だなとか聞こえた。
なんなんですか正邦メンバー部活でいっつも悪ノリしかしないじゃん。私もするけど。優しくはない。
一度黒子くんにお礼を言ってから話を続けた。
「で、降旗くんを助けてから混乱してたから落ち着かせて部屋の捜索をしました。
けど、おもちゃやぬいぐるみが一つもないのに一目で子ども部屋だって感じる変な部屋でした。
壁紙とかタンスの飾りでなんとなくそう思うんだろうって自己完結はしたんですけど、どこか奇妙で…
それで、ベッド脇にあった…これくらいの小さなタンスを開けてみたら中は真っ暗でした。
黒で塗りつぶされてるのかと思ったけど中から微かに風の音が聞こえたので底深だと…」
「そのタンスの中で黄色く小さなモノがあると言った雨倉にラッキーアイテムの懐中電灯を貸したのだよ」
「…その後、黄色いものを掴めた際に今まで居なかったはずの何かが中から私の手首を掴んで引っ張りました」
引っ張られた右手首を軽く撫でながらそう言うとみんな驚いた顔になった。
そりゃあそうだ。だってそれまで見えなかったし居なかったし、認識されていなかったモノが出てきたんだ。
底深なのに下から這い上がってきたのか何なのか。突然出てきて引っ張られる恐怖は、これ以上ない。
「双葉ちゃん…」
「それで、手首を負傷したんだな」
「ん、今は痛まないけど…」
両隣に座る桃井ちゃんと赤司くんが怪我の心配をしてくれたので小さく笑い返す。
一緒に行動していた宮地さんと緑間くんと降旗くんも私の様子を窺ってきていた。
続きを話そうかと考えてるんだろうな。私としては有り難いけど、私が説明したほうがいいだろう。
あの時のことを思い出して少しゾッとしたが桃井ちゃんが手を握ってくれたので落ち着いて深呼吸をする。
大丈夫。此処にアレはいない。消した。此処にはみんながいるから、恐怖心に負けるな。
再び意気込んで、手首を掴まれてからのことを話すために口を開いた。