夢想曲1

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頼られたい年頃のお兄ちゃんポジションの高尾ちゃんに続いて部屋に入った。

部屋の端にベッドが寄せられていて、根武谷さんアレ一人で動かしたのか…と思うと筋肉凄いと思った。


赤司くんと桃井ちゃんが暗号を記入する際に周りや記入しているところを見て何も出ないか見張る。


ピッピッピピッと電子音を立てながら暗号を記入してカチッと音が鳴った。

そしてゆっくりと板が退いていき、部屋の明かりが僅かに入っているだけの暗い階段が下に続いていた。



「…暗いね」

「うん。懐中電灯でもあればよかったんだけど…」

「携帯の明かりじゃ限られてくるしな」

「とりあえず降りる?」

「でも順番はどうするんだよ」



とりあえず様子見ということで最初の一段を降りてみると、横にあったらしい小さな蝋燭が連動的に下へと火が点く。


そういう仕掛けなのかもしれないけど、何だか導かれているというか…迎えられているような気もする。


此処まで来れる確証はなかったはずなのにこんなところにまで仕掛けを施しているとは。

妙に感心しながら振り返って順番を話す。板が出てくるということは恐らくもうない。



「まず私が降りてもいいかな。坂本先輩は護身術だけだから捌ききれない所もあると思うし」

「悔しいが一理あるな。雨倉が最初でオレが最後行くけど他どうする?」

「あ、じゃあ私が双葉ちゃんの後ろ行く!いい?」

「大丈夫だよ!桃井ちゃんは絶対に守ってみせるよ!」

「高尾はまた真ん中で前が赤司、後ろはオレが行くって並びでいいか」

「はい。…それじゃあ雨倉、降り始めてくれ」

「了解。ペースが遅かったり早かったりしたら言ってね」



そう言って階段を下りながら足元に注意しながら時々振り返って後ろを確認する。

しばらく降りて先が見えない…と呟いた時、やっと床が見えたのでそれを伝えながら床に着いて奥へ行く。


全員降りたことを確認してから各々の携帯で周りを照らしていると、横の方で新たに蝋燭が点いた。

そちらへ明かりを向けると大きな扉があった。見上げて上にも明かりを向けるけど大分デカイなこれ。


扉を開けようとしてもガッチリ閉められていて開く様子がない。また何か仕掛けを解かないとダメなやつ?


まだまだ先なのかなー…と思いながらため息をつくと、扉の横の壁に金属の何かが見えた。



「双葉ちゃん?どうかしたの?」

「何かある。…金属の板だ」

「薄くだけど文字も書いてんな。…『わたしはだあれ?』だってよ」

「知らねぇよ」

「マジレスしちゃダメっすよ宮地さん」

「両端に紙が挟まっているね」

「なんて書いてるの?」

「『桜の嘘つき!!』と『虚の存在価値』だな」
 

「つまり…それがこの問いかけのヒントってことか?」



そう言った坂本先輩の言葉に納得した。

どっちが苗字と名前なのか分からないけど、名前が分かったらここで呼べば扉は自ずと開くんじゃないかな。

また仕掛けかぁーと思いながらポケットに紙を仕舞う赤司くんを見てから戻りますか?と聞こうとした。


その刹那、後ろからゆっくりと、だけどしっかりと女の子の声が聞こえた。私でも、桃井ちゃんでも無い。


桃井ちゃんを後ろに庇いながらバッと距離を置きつつ振り返る。隣には坂本先輩がいるのが分かる。

振り返った先には黄色い小さなリボンで髪をハーフアップにしている、可愛い小さな女の子が居た。

小さく微笑みかけるその表情は柔らかいけど目に深い闇を感じさせた。


この子が、あの日記の持ち主であり私たちを此処に連れてきた張本人…?




「お姉ちゃん、すごいね。わたしビックリしちゃった!」

「…君、は……」

「その紙に書いてあることがわかったらみんなでここに来て、お姉ちゃんが言って。ここ開くから」

「お前、何で雨倉を狙った?動機が突然すぎねぇか」

「日記に書いてあるよ」

「オレらは雨倉を手に入れるには一番邪魔なんじゃねーの?わざわざ連れてくる必要性はあんのか?」

「コイツが言ってたらしい部活の人はオレらだけなのに何で知り合いでもねぇコイツらも連れてきたんだよ」

「さっきも言ったよ?日記に書いてあるとおりだって」



淡々と答えるその子に両親のことを尋ねようと思ったら「もう少しだから待っててねお姉ちゃん」と手を振って消えた。


あの子は本当にあの言葉を言いたくて、わざわざ姿を現したの?

主将に攻撃した話を聞いたときは落ち着きがなかったのに、さっきは宮地さんと坂本先輩の質問に淡々と答えていた。


それに最後の言葉。ここを出るまでのことなのか、私とあの子だけになることなのか。

それにしては気のせいかもしれないけど…目が違った気がする。


最初は闇があるように感じたけど、必死に縋る何かを感じた。

花宮さんに話したらめでたい頭だと言われるかもしれないけど、もしかしたら苦しんでいるのかもしれない。



「…なぁ赤司。お前何でさっき何も聞かなかったんだよ」

「ある程度確信を得ているからね。だがそれは雨倉が気づかなければ意味がない」

「ずっと思ってたけど赤司くんヒントくれないよね」

「日記にでもあるんじゃね」

「投げやり!?」

「ヒントか…最後の言葉、どう思った?」

「え?」

「あの子はもう少しだから待っててと言っただろう」

「私とあの子になるだけ…とか?あの子の望んでることだし…」


「うーん…でもそれは待機してる人たち含めて人数が少なくなってきてる場合じゃないかな?

現状は全員無事だし、一気にけしかけるにしても正邦の皆がいたら苦しいと思うし」


「何にせよ終わりは近いってことだよね…」



そう会話をしてから戻ろう、ということになり降りてきたときと同じ並びで階段を上がった。


想像していたより幼くて普通の女の子だったけど、狂気を除けば普通の女の子なんだよね。

当たり前のことだけど、どうしてあんな風に歪んでしまったのか。私が公園で出会ったから…?

だけど日記を見る限りは私と会うより前に既に遊び方を変えて怖い方向にいってたから…家庭環境?


戻ってからもう一度、日記を見よう。あの子が伝えたいことは日記にあるんだ、きっと。



「皆。あのね、私…―――」
 
 

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