夢想曲1

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「ということがあった。つまりこの紙に書かれているものを解いてからが本番だ」

「それについては分かったけど…」

「雨倉はそれでいいのか?」

「でも私は双葉ちゃんらしいと思うよ。あの子を助けたいって言ったこと」



先ほどの探索で起こった事を赤司くんが話してそれに対して各々話し始めた。

あの子を助けれる可能性があるんなら私はそれに賭けたい。


今、こんな状況に陥らせた元凶でもあるけど何だか苦しそうな気がして気がかりになっている。

あの扉の前で女の子がいなくなってから改めて私は口を開いた。



『皆。あのね、私…あの子を助けたい』

『はぁ?助けたいって…アイツはお前を狙ってんだぞ?俺らも殺す気でいるし』

『こんな所に連れてくるくらいだからな…宮地に同意だな』

『簡単に助けれるとは思ってませんよ!でも、あの子の目は助けを求めてるみたいだった』

『助け?』

『うん。何かを求めてるような…縋ってるような感じ』



私が言った助けたいという言葉に一瞬だけシン…と静まった。

皆を巻き込んで殺しにかかってきている子を助けたいなんて反対する人がいるのは分かってる。

だけどそれ以上に悲しそうで苦しそうで…本当にこんなことをしてまで私に執着しているのかも分からない。


皆の前でもそのことを話すと鼻で笑う人がいた。それはやっぱり花宮さんだった。

花宮さんだけじゃない。霧崎第一の人は反対のようだった。


まぁ、いくら反対されようが私は助けたいと思った。だから助けることに変わりはない。



「ふはっ!これだからイイ子ちゃんは虫酸が走るぜ」

「助けるたって何すんの?訴えかけて改心でもさせんの?全員で?んな簡単にいかないんじゃね」

「訴えかけるにしても何言うんだよ。全部綺麗事にしか聞こえねぇだろ」


「まぁ地雷踏んだら一巻の終わりだしね。あくまで此処は相手のテリトリーでこっちは不利に変わりない。

正邦の人たちだけじゃ手が回らなくて怪我人は出るだろうし生きて帰れる保証もないよね」


「すまないがいい策だとは思えないな。必ずしも説得がいい結果に実を結ぶことにはならない」

「…ッお前らなぁ…っこの状況になってまでんなこと言うのかよ!?」

「落ち着け日向!俺は雨倉の意見に賛成だが、花宮たちの言うことも一理ある」

「けどっ」

「まぁまぁ全員一旦落ち着きぃや。まずは雨倉さん達が持って帰ってきた紙のことが最優先やろ」



タイムリミットが決められてるわけでもないしな、と言った今吉さんの言葉にその場の空気が悪くなることはなかった。


木吉さんも言ったように、花宮さんたちの意見は最もだ。私もそれだけじゃダメなことは分かっていた。

だけど…それでも助けたいって思っちゃったんだよ。誰に何を言われようが、この決心は揺らがない。


ぎゅ…っと握り締めていた拳を解いて赤司くんが開けた紙を覗き込んだ。



「…【桜の嘘つき!!】?」


「えっ?!すすすすみません!?」

「落ち着け、桜井のことじゃない」

「あっうっすみません!!勘違いしてすみませんんんっ!!」

「いや…落ち着け!?」

「征ちゃん、もう一枚の方は?」

「こっちは…【虚の存在価値】だな」


「きょ?きょって何だよ」

「俺が知るかよ」

「ちょい黙ってろ馬鹿二人」



マイペースに馬鹿を決め込む火神くんと青峰くんに続いて黄瀬くんも首を傾げた。

あっすごい馬鹿トリオできた。しかも信号機だ。これなんてミラクル?


そんなことを考えつつも私は既に分かったので余裕をかます。多分、頭脳組は皆分かったんじゃないかな。



「ふっふっふー。今回のはもう分かったよ!」

「雨っち頭いいの!?仲間だと思ってたのに!」

「いや、今そのネタ引っ張る?随分前にも誰かとやった気がするんだけど…どんだけ馬鹿だと思われてんの私」

「それで、どういうことなんだ?」

「まずは苗字からいくね。【桜の嘘つき】これは簡単だよ。桜の季節は?はい青峰くん」

「あ?春だろ?」

「正解。春の季節で嘘にまつわる日が一日だけあるよね?黄瀬くん」

「エイプリルフール!4月1日っスね!」

「?四月が苗字なのか?」

「ううん。四月一日って書いてわたぬきって読むんだよ。だから苗字は四月一日」



苗字の解説の時点で火神くんたち以外にちらほらと感嘆の声が上がった。

長いけど実は覚えやすい苗字なんだよね。シンプルイズベストに近いものがあると私は思ってる。


そして関係ないけど黛さんが1人ボーッとして参加してこようとしないのが気になる。

次は名前の説明するけど当ててみようかな…あっいいなこれ。分からない人以外にも当てよう。

ランダムに当てるのも楽しそうだよなーと思いながら再び説明に入る。



「じゃ次は名前ね。【虚の存在価値】これは数学に関係します!1年半ばで習ったんだけど…」

「「「えっ!!?」」」

「習った!?」

「火神くんは大概寝てますからね…テスト終わったらすぐ忘れますし」

「どんまい黒子くん…ということで、はい黛さん!」

「あ゛?」

「そんなドスの聞いた声出すなんて知らなかった!!!」

「いいじゃん黛サン当てられたんだし!」

「じゃあお前が「俺わかんねーし無理!!」チッ………虚数だろ」

「いえす!虚数、存在価値とくれば?んーと……敢えての大坪さん!」

「虚数のi、だろ?」


「正解です!虚の存在価値はない、ということになるけど多分関係なくて名前は「あい」。

あの女の子の名前は四月一日あい、だよ」


「女の子らしい名前だねー」



そう言うと虚数なんて習ったっけ…?と言う火神くんたちと若松さん…エッ。

今吉さんも苦笑いしてるよ若松さん…津川は安定だろ知ってる。だからスルーした。


四月一日あい。名前の漢字は分からないけど、桃井ちゃんの言った通り女の子らしい可愛い名前だと思う。

両親も愛をたくさん受けれるように、とか思いながらつけた名前ならどうしてこうなったんだろう…


そんなことを考えていると、突然頭を鈍器で殴られたような痛みが走り頭を覆った。



「えーでも俺時々は授業聞いてるけど虚数なんて習ってないっスよ〜……って、雨っち?」

「まさか火神たちが馬鹿すぎて……」

「えぇぇっ!?」

「…いや、違う。雨倉、しっかりしろ。どうした?」

「双葉ちゃん…?」

「い………た、い…っ」

「え?」

「痛い…っ痛い痛い痛い痛い痛い!!!!頭が…っいた…っ割れる……っ!!」



名前を言った時から少し頭痛はしていたけど、疲れが出てきたのかと思ってた。けど、違う。

周りにいたみんながざわつく音が遠くに聞こえる。どうしてこんなに痛いの?


息もまともにできないほどに頭が痛くて本当に割れそうで。

目も瞑っているから周りの状況は分からない。


皆の声とは別の、あいちゃんともまた違った誰かの声が聞こえてくることも伝えられない。この声は、誰の声?


刹那、浮遊感に襲われたと思えば誰かに支えられた。


 


聞こえてくる声も支えてくれる人が誰なのかも分からないまま、意識は途切れた。

 

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