夢想曲1

□51
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痛い

「お姉ちゃんすごい!」


痛い痛い痛い

「どうして…」


痛い痛い!!

「実は…――」


頭が、割れそうだ

「お願い、どうか…


あの子を、助けて…―――」



その刹那、ある映像が頭の中に入り込んできた。

入り込んできた、というより…変な感じだ…私、この場所知ってる…?学校近くの公園だよね…


遠くの方から聞こえるチャイムの音。それと同時に数人の小学生が仲良さげに公園に入ってきた。

男の子3人に女の子4人…内一人があの子、あいちゃんだった。


ごく普通の小学生が遊んでいる様子を見て、どうしてあんな事をしたんだろう…そう思った。


すると、公園の入口から私が入ってきて皆に声をかけていた。違和感しかない第三者視点か。



「おねーちゃんだれ?」

「お姉ちゃんは雨倉双葉だよ!」

「高校生だ!」

「せーほー高校のせいふくだ!」

「そうっ正邦!ところで、もう夕方だけど家に帰らなくてもいいの?危ないよ」

「へーき!お姉ちゃんも一緒にあそぼー!」

「んー…そうしてあげたいのは山々なんだけど、部活で疲れてね…」

「部活?何してるの?」

「バスケ部のマネージャーだよ。チームメイト大好きなんだあ」



嬉しそうに皆に話す私を見て、傍から見た私あんな緩んだ顔してるんだ…緩み過ぎ…とちょっと引いた。

これは第三者視点というより、私が忘れていた記憶なんだろう。

どうして忘れたのかはまだ分からないけど、この時点であいちゃんに異変はない。


そう思っていると服の裾を掴んで「部活楽しい?」と聞いていて、私は笑顔で「うん!」と言って頭を撫でた。

あいちゃんはキョトンとした後にふにゃりと頬を染めながら嬉しそうに頭を撫でられていた。


場面が変わって、今度は皆と自己紹介をしていて一人一人頭を撫でていた。

その中でもやっぱりあいちゃんだけが心の底から嬉しそうにしている。可愛いけど…本質を知ってるとどうもなぁ…



「あいね、どんな漢字でかくかおしえてあげる!」

「おっ漢字書けるの?」

「3年生だもんっこーゆー漢字」

「へぇー…愛依ちゃんか…本人も可愛けりゃ名前も可愛いねーはぁ羨ましい」

「お姉ちゃんも可愛いよーっ」

「わたしお姉ちゃん好きー!またバク転してー!」

「いいよー。よく見ててね?…ほっ」

「「「わぁーっ!」」」

「お姉ちゃんすごい!」

「へっへーん」



得意げにする私に皆は純粋にはしゃいでいた。


だけど、この時にはもう日記で言う×△くんは居なくなっていた。最初に見た場面では確かに居た。

日記の内容と照らし合わせてみると私と知り合う前から愛依ちゃんは既に一人、殺めている。


私と出会った時も今もそんな気配が微塵もない。なのに、どうして…。


□ちゃんだと思われる子と何度か会っている場面も●×くんと会ってる場面もある。

公園で遊んでいる時もその時の話をしていると愛依ちゃんの表情から段々笑顔がなくなっていた。


最近の子こわい、とか軽く現実逃避しているとどこかのカフェで見知らぬ女の人とお茶している場面が映った。


綺麗な女の人だけど、どこか疲れているような雰囲気が出ている。細いのはやつれているからか。



「…愛依ちゃんのお母さんって言ってましたけど、どうして私に?」

「いくつか、聞きたいことがあるの。…どうして、あの子と?」


「えっと…愛依ちゃんもそうですけど、友達と夕方まで公園で遊んでいるのを見かけて声をかけたんです。

その時にまた遊びに来るって約束して、それから度々遊ぶようになりました」


「そう…本当はあなたに話すことじゃないと思うけど、実は…あの子は、本当のことを知らないの」

「…?本当のことって、どういう…」


「…。ウチは裕福な家じゃないわ。共働きで1日働き詰めることでもしないと家計が成り立たない。

パートの仕事とは別に、水商売をしているの。子供もいるのにダメだってわかっているの。だけど…そうするしか生きていけない。

その様子を愛依に見られて、どこに行くの?なんて聞くあの子に私は仕事としか言えなくて…っ

あの子は賢いわ。だからこそほぼ1日中家に居なくて休日もなくて遊んであげられなくて相手にしてあげれなくて、

それを私は浮気して夜遊び、夫はどこかに遊びに行って明け暮れていると勘違いしてしまっているの」


「勘違い…?なら、そうだと愛依ちゃんに」


「言ったわ!言ったけどロクに相手をしてない私や夫に言われても信頼感はゼロよ、ダメなのよ!

賢いからこそ、思い込みもまたあって、誤解を解くこともできなくて、信じてもらえなくて…っ

抱きしめようにも、愛依の言うとおり汚い…夫も、仕事でボロボロの手であの子を触る資格があるのか、気に病んで…


だから、お願い、どうか…あの子を、助けて……!」



愛依ちゃんの母親から話を聞いて、絶句した。

よくドラマや映画で勘違いから生まれた悲劇や殺人があるけど、本当に目の当たりにすると何も言えなかった。


両手で顔を覆って泣く愛依ちゃんの母親になんの言葉もかけられなかった。ただ、落ち着くのを待つだけ。


不意に周りを見ると木陰からコッチを見る愛依ちゃんを見つけてゾッとした。

まさか、見られていたなんて。私といる自分の母親を睨みつけていて、日記の執着心に繋がったのか?と疑問に持った。


また場面が変わってバスに乗り込んで疲れからか寝たとき、周りがブラックアウトした。


辺り一面暗い中でボンヤリと光が出てきて、愛依ちゃんの母親になった。



「…記憶は、愛依ちゃんが作り出した空間に連れて行かれる際になくなったんですね」

「えぇ、恐らく…思い出してくれてよかった。鈴は見つけた?」

「え…どうして、それを?」

「あの鈴はね、愛依が生まれた時に私たちがあげたものなの。大切な…唯一の繋がり」

「……貴女は…貴女は、無事…なんです、か?」

「辛うじて、ね。あの子が…愛依が帰ってきた時に目一杯愛してあげられるように万全の状態でいなくちゃ」


「そっか…よかった。私が愛依ちゃんの思考を更におかしくさせてしまった原因でもあります。

必ず…必ず、愛依ちゃんを助けてみせます!」



あの時に何も言えなかった代わりに、今言うんだ。しっかりと目を見て意思を伝える。

そうすると愛依ちゃんの母親は目を見開かせたあとに涙ぐんで、深々と頭を下げた。


周りが少しずつ明るくなっていって、ゆっくりと目を開いた。

 

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